研究課題
雌性配偶体は被子植物の繁栄を支える重複受精に不可欠な組織である.形成過程は独特で,1つの細胞が3回の核分裂を経て多核体となった後に細胞化し,それぞれ固有の機能を獲得する.各細胞の運命決定には多核体での核の位置や植物ホルモンの分布の違いが重要であると示唆されているが,その時期や分子実体は明らかでない.これまでの申請者の研究から4核期後半には細胞の運命が決まることが示唆された.本研究では,シロイヌナズナの2核期,4核期の多核体に着目した顕微細胞操作とライブイメージング,逆遺伝学的解析をおこない,運命決定を担う遺伝子の選抜と生理機能解析を進める.これにより雌性配偶体の細胞運命決定を担う分子基盤を明らかにすることを目的とした.今年度は,2核期から4核期のRNA-seqとライブイメージングのための準備を進めた.雌性配偶体の核を標識するマーカーラインを作出して,酵素処理による単離条件の検討をおこなった.4核期の胚珠から2核だけを含むプロトプラストの遊離が見られたため,4核期の珠孔側と合点側の2核ずつを別の色で標識する系統の作出を進めた.RNA-seqデータ取得後のデータ解析手法の準備として,これまでに取得した成熟期の雌性配偶体の卵細胞、中央細胞、助細胞と助細胞機能が欠損した変異体の助細胞の遺伝子発現を比較したところ,変異体の助細胞の遺伝子発現が部分的に卵細胞様に変化することを見出した.この成果をまとめた論文を近日投稿予定である.また,卵細胞のデータを交えた国際共同研究を進めて論文を発表することが出来た.今回確立した解析パイプラインは本研究で取得するデータ解析にも応用可能である.
2: おおむね順調に進展している
本研究では雌性配偶体の各細胞の運命決定を裏打ちする分子基盤を明らかにすることを目指している.今年度は本課題の主軸である2核期,4核期の雌性配偶体の逆遺伝学的解析とライブイメージングのための準備を着実に進めることが出来た.全ての解析手法において必要不可欠な形質転換体を作出して,RNA-seqに向けたプロトプラストの単離条件も検討することができた.2核期や4核期と同様の手法で得た雌性配偶体の各細胞の遺伝子発現データを解析した.ここで整備したデータ解析手法を利用することで,今後取得する遺伝子発現データを速やかに解析することが可能である.以上の理由から次年度以降のための基盤を整備が出来たと考えている.
雌性配偶体の細胞運命決定機構を調べるための基盤情報を得るために,今年度整備した手法によって,4核期の雌性配偶体のRNA-seqをおこなう.遺伝子発現情報を取得できることを確認でき次第,続けて2核期や4核期の珠孔側,合点側の解析も進める.並行してイメージング質量分析による多核体における植物ホルモンの分布変化を調べる実験系の確立を目指す.
顕微操作機器の整備を予定していたが、今年度は遺伝子発現データ取得のための材料開発とデータ解析系の準備を進めた。そのため、次年度使用額が生じた。翌年度は合算してサンプリングのための顕微操作機器を整備する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Nature Cell Biology
巻: in press ページ: -
10.1038/s41556-020-0515-y
Molecular Reproduction and Development
巻: 86 ページ: 925~925
10.1002/mrd.23175