研究課題/領域番号 |
19K16174
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
坂本 真吾 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (00783664)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物 / 一次細胞壁 / 転写ネットワーク / 構成成分分析 |
研究実績の概要 |
植物細胞壁は成長中の細胞で形成される一次壁と成長が停止したのちに形成される二次壁に大別される。二次壁ではマスター転写因子の発見を皮切りに大きく形成制御機構の解明が進展したが、一次壁の形成制御機構はいまだに不明な点が多い。本研究では我々が新たに同定した一次壁形成を制御するERFIIId/IIIe転写因子群の機能解析を通して、植物の多様な一次壁形成の制御機構を明らかにするものである。本年度は、対象とするERF転写因子群の各遺伝子における機能の違いについて、ERF転写因子群の各遺伝子によって制御される下流遺伝子群と形成される一次壁の連関および比較解析を行い、遺伝子機能の違いを明らかにすることを目的とした。実施初期において、全身発現プロモーターを用いてERF転写因子群を発現させたが、いくつかの遺伝子発現株では重篤な生育不良がみられ、正当に細胞壁組成を比較することが困難であった。それを回避するために、繊維細胞において二次壁を形成できないnst二重変異体にERF転写因子群の各遺伝子を繊維細胞特異的に発現させることで繊維細胞特異的に一次壁を形成させ、その繊維細胞の構成糖成分を比較した。その結果、生育に大きな違いがない状態での比較を可能にし、加えてERF IIId群とERF IIIe群の遺伝子を発現させた株では主にペクチンに関係する糖組成がそれぞれ異なっていることを見出した。また同サンプルでRNA-seqを行ったところ組成分析の結果同様グループの違いによってDEGが大きく異なっており、加えてそれぞれに異なる細胞壁関連遺伝子群の発現が変動していることも見出した。今後本来機能すべき組織、細胞において、ERF転写因子群の各遺伝子、ERF転写因子の下流で発現調節をうけている遺伝子群、形成される細胞壁成分との連関性を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、形質転換体の成分分析、トランスクリプトームを解析を実施した結果、ERF転写因子群の違いによって構成成分および変動する遺伝子群が異なっていることを見出した。今後どういった遺伝子群が各々のファミリーもしくは遺伝子で異なっているか詳細に解析していく予定である。 またノックアウト体の作成も進めており、少なくともそれぞれの遺伝子について、ホモ化したタグラインもしくはゲノム編集によるノックアウト株の作成をすすめており、シングルノックアウト株についてはおおむね種を取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は各転写因子が機能する組織、細胞を見極めるため、プロモーターGUSもしくはGFPラインの解析を進めるとともに、ノックアウト株の表現型について解析を進めていく。また転写因子の多くは重複性のためにシングルノックアウトでは明瞭な表現型がみられないことも想像されるため、多重変異体の作成、および、CRES-Tによるドミナントネガティブ体の作出および表現型の解析も進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の研究においては、既存の試薬、機器類の使用により不便が生じなかったため、物品費をほとんど使わなかった。また学会中止のため旅費を使用しなかった。今年度はより詳細な分析が必要となり可能な範囲で多サンプルを検証することが好ましいため、本年度分からの持ち越しを充当し、当初の予定よりも多めに分析を行う予定である。
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