研究課題/領域番号 |
19K16178
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
山口 陽子 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 助教 (70801827)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヌタウナギ / 環境適応 / 体液調節 / アミノ酸 / 内分泌系 / 後葉ホルモン / 腎臓 |
研究実績の概要 |
本研究は、円口類ヌタウナギにおける個体・細胞レベルの体液調節機構とその内分泌制御について検証することを目的とする。これまでに、ヌタウナギではアミノ酸を用いた細胞単位での体液調節が重要であり、腎臓がこれを補助する可能性を見出したほか、既知体液調節ホルモンの受容体を複数同定した。以上を踏まえ、本年度は、1)筋肉中の遊離アミノ酸組成とその変動、2)腎臓におけるアミノ酸輸送体の局在、ならびに3)既知体液調節ホルモン受容体の局在、を検証した。 1)では、HPLCによる解析の結果、通常海水で飼育した個体の筋肉中遊離アミノ酸濃度の総計は約87mMであり、特にプロリンとアラニンで6割を占めた。高濃度(150%)または低濃度(65%)海水に馴致した群では、遊離アミノ酸濃度は通常海水群の230%または40%に増減した。 2)では、腎臓におけるアミノ酸輸送体solute carrier family (SLC) 6a6、6a18ならびに7a8に着目した。これら分子は腎臓と筋肉の両方で発現し、塩分環境移行によって発現レベルが変動した。in situ hybridization(ISH)による解析の結果、SLC6a6が原腎管と糸球体に、SLC6a18が原腎管のみに局在することがわかった。 3)では、代表的な体液調節ホルモンである後葉ホルモン・バソトシンの受容体(VTR)の局在を調べた。これまでに同定した2種類のヌタウナギVTRsのうち、片方は脳で、もう片方は心臓で高い発現が見られた。前者のISHシグナルは脳の手綱、視床下部および下垂体などで確認され、後者のシグナルは心房と心室の内腔に散見された。また、腎臓で発現変動するA型ナトリウム利尿ペプチド受容体についても解析し、糸球体でシグナルを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ想定通りのペースで研究を進めている。当初は鰓も解析対象としていたが、研究開始時点までの成果に基づき、より重要性が高いと判断した腎臓と筋肉に的を絞った。これら組織を並行して解析した結果、ヌタウナギの腎臓がアミノ酸再吸収能を持ち、それにより細胞単位での体液調節に寄与する可能性を示すことができた。ヌタウナギの腎機能に関する分子レベルでの知見はきわめて限られており、重要な成果である。予定していた内容のうち、既知体液調節ホルモン分子の発現定量のみ未実施であるが、脳や心臓における受容体の局在解析でこれに代わる成果が得られた。特に、後葉ホルモンの受容体が心臓に限局的に発現する例はこれまでに報告が無く、後葉ホルモンの機能進化を考える上で大変興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にしたがい、引き続きISHによる機能分子群の局在解析を進める。特に腎臓や脳での解析を優先するが、進捗状況によっては他の器官(鰓など)も対象とする。既に同定したアミノ酸輸送体の関連分子に加え、低濃度海水群での発現変動が示唆された酸塩基調節関連分子、ならびに既知体液調節因子である下垂体前葉ホルモンの受容体を候補とする。脳においては、後葉ホルモン受容体を発現する神経細胞の詳細を検証したい。 これらISHの結果に基づき、特に重要と考えられる分子について、特異的抗体を作製する。ただし、市販の抗体でエピトープ配列が標的分子と一致するものがあれば、優先的に使用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物飼育補助にあたるTA等への謝金を人件費として計上していたが、本年度は実施の必要が生じなかった。また、実験動物の維持管理費も想定より低く抑えることができた。当初設備備品として計上したホットプレートについては、より安価な代替品を購入した。所属する学科の教員が退職するのに伴って多くの消耗品を譲り受けたことも使用額の減少につながった。 現在ISHの実験系は立ち上がっているものの、今後実施を予定している免疫組織化学的手法については環境整備が不十分である。そのため、次年度使用額は主として上記手法に関連する試薬や機器等の購入にあてることを計画している。また、現在までの成果を複数の論文として準備しており、成果発表費用としての使用も予定している。
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