研究課題/領域番号 |
19K16180
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
大原 裕也 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (80771956)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核内倍加 / 前胸腺 / DNA二本鎖切断 / PIAS / エクジソン |
研究実績の概要 |
本研究では、分裂を伴わない細胞周期である核内倍加が組織の機能分化を引き起こす分子基盤を解明することを目的とし、ショウジョウバエ内分泌組織である前胸腺をモデル系として着目し、核内倍加の進行によりステロイドホルモンであるエクジソンの産生が引き起こされるメカニズムの一端を明らかにする。 昨年度の研究では、核内倍加によってDNA二本鎖切断(DSB)がエクジソン合成酵素をコードするneverland(nvd)遺伝子近傍に生じ、そのDSBにSUMO付加酵素であるPIASタンパク質がリクルートされ、PIASがnvdの発現が活性化する可能性を検証した。SUMO経路の因子(Aos1、Uba2、Ubc9)はnvdの発現を制御していること、PIASはnvdの発現を選択的に制御していること、PIASノックダウン個体の表現型(エクジソンの低下による幼虫での発生停止)はnvd過剰発現によりレスキュー出来ることを明らかにした。PIASの発現解析では、PIASタンパク質はヘテロクロマチン領域近傍に特に強く局在することも見出した。DSBのマーカーであるリン酸化H2AXとPIASがマージする前胸腺細胞も見受けられることから、DNA複製後、DSBの発生に伴いPIASが一過的にDSB発生領域にリクルートされる可能性が考えられる。 さらに、ヘテロクロマチン領域に局在しヘテロクロマチンの正常な構造の形成に必要な因子であるHeterochromatic protein 1(HP1)もPIASと同様にnvdを選択的に制御していることを見出した。nvd遺伝子はヘテロクロマチン領域に位置することから、PIASはHP1のSUMO化を介してnvd遺伝子領域のクロマチン構造をリモデリングしていると予想している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PIASおよびSUMO経路の因子の遺伝学的解析は順調に進んでおり、SUMO経路の因子(Aos1、uba2、ubc9)はnvd遺伝子の発現上昇に必用であることと、PIASおよびHP1はnvd遺伝子の 発現を選択的に制御していることを見出した。また、PIASタンパク質の発現解析も順調に進んでいる。 一方、RNA-seqおよびChIP-Seq解析はサンプル調製の条件を検討している段階であり、今年度は更に精力的に進める必要がある。前胸腺は細胞数が約50個と比較的小さい組織であり(幼虫後期において直径約200-300 um)、解剖による摘出および少量のサンプル調製を特に注意深く行う必要がある。今年度はプールする前胸腺の数を更に増やし、クオリティの高いデータを得るために十分な量・質のライブラリを得たいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、ChIP-SeqおよびRNA-Seqを精力的に進め、PIASの下流で働く遺伝子群を選抜する予定である。また、nvd遺伝子領域におけるHP1の局在をPIASが制御する可能性を検証するために、正常な前胸腺およびPIASをノックダウンした前胸腺を対象に免疫染色およびDNA hybridizationを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に残予算を使い切ることを試みたが、必要な消耗品を購入するためには予算が不足していたため、使用を断念した。今年度の消耗品の購入に充てたい。
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