本研究では、迷走神経シグナルによる細胞増殖・組織適応機構のさらなる解明を目指して検討を行った。具体的には、①膵臓内における迷走神経系の三次元解剖学的解析、②迷走神経の選択的活性化による膵β細胞増殖効果と糖尿病モデルマウスにおける血糖値改善効果の検討、について解析を行った。 ①迷走神経系可視化マウスを作成し組織透明化技術を用いて膵臓内迷走神経の三次元的な検討を行ったところ、迷走神経線維束は個々の膵島に近接する迷走神経節をつなぐように連続して投射していることが確認された。このことから、個々の膵島はまったく単独で働くのではなく迷走神経が情報を統御し協調して機能していることが示唆された。 ②光遺伝学的手法により迷走神経を選択的に活性化できるモデルマウスを作成し、迷走神経の選択的活性化を行った。光ファイバーを用いた横隔膜下迷走神経の刺激法に加え、膵臓に分布する迷走神経への選択性をより高める刺激法の開発に成功した。これらの方法による急性の迷走神経活性化によって糖負荷時のインスリン分泌が亢進し、慢性の迷走神経活性化によって膵β細胞増殖が誘導され膵β細胞量が増加した。増加した膵β細胞が機能を有するかどうかを検証するためにストレプトゾシン誘導性インスリン欠乏性糖尿病モデルを用いた検討を行ったところ、慢性の迷走神経活性化によって血糖値の上昇を予防する効果が確認された。 以上の結果から、迷走神経が各々の副交感神経節の情報を統制して膵内分泌機能・組織適応機構に関わっていること、迷走神経の直接的活性化により、生体に備わる神経を介した組織適応機構を利用し膵β細胞増殖を誘導できること、さらにはそれが新たな糖尿病治療法となり得ることが明らかになった。
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