研究課題/領域番号 |
19K16185
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
森岡 絵里 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (80756122)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 体内時計ニューロン / ショウジョウバエ / 蛍光タンパク質 / イメージング |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ中枢時計ニューロン(LNs)における細胞内Ca2+振動の本質を明らかにするため、まず、汎用の1波長蛍光カルシウムセンサータンパク質GCaMP6sを、LNs特異的に発現させたショウジョウバエ系統を作出し、脳組織培養におけるLNsイメージング実験を行った。その結果、先行研究で報告されたようなGCaMP6s蛍光輝度の概日振動が、3日間にわたり観察された。次に、蛍光タンパク質EYFPをLNs特異的に発現させたショウジョウバエ系統を用いて、同様にイメージング実験を行った。その結果、GCaMP6sと類似したYFP蛍光輝度の概日振動が観察された。これらの蛍光輝度変化は、定量性をもつレシオメトリック型蛍光カルシウムセンサーYellow Cameleon 2.1のパラレルな蛍光輝度変化と一致しており、細胞内pHの概日振動を裏付ける結果が示された。 また、新たにLED蛍光光源を導入し、レシオメトリック型の蛍光pHセンサータンパク質deGFP4を、LNs特異的に発現させたショウジョウバエ系統を用いて、LNsにおける細胞内pH振動の再検討を行った。イメージング実験の結果、細胞内pH振動の存在を示す蛍光輝度変化が観察された。しかしながら、510 nm波長蛍光では明らかな蛍光輝度変化が観察されたのに対し、465 nm蛍光は蛍光輝度が微弱なため明瞭な変化の検出には至らなかった。これは、510 nmに比べ465 nmの蛍光輝度が低いというdeGFP4の性質に因るものと考えられる。今後、イメージング装置の改良などを行い、明瞭なレシオメトリックな細胞内pH振動を検出する。以上の結果は、幅広い研究分野で使用されている1波長励起1波長蛍光型センサーの問題点を示すとともに、中枢時計ニューロンにおける細胞内H+濃度リズムの存在を明らかにするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の第一段階である1波長励起1波長蛍光型センサーを用いたイメージング実験においては、現在までに、近年広く用いられているカルシウムセンサーGCaMP6sに加え、黄色蛍光タンパク質EYFPをLNs特異的に発現させたショウジョウバエ系統を用いた、長期的イメージング実験が完了した。その結果、予想通り、LNsにおいて、GCaMP6sおよびEYFPの蛍光輝度が概日振動を示すことが明らかとなった。GCaMP6sの蛍光輝度振動は、LNsのCa2+濃度振動を報告した先行研究と一致する結果であるが、EYFPにおける蛍光輝度変化と、これまでの実験で得られたレシオメトリック型蛍光カルシウムセンサーのパラレルな蛍光輝度変化を合わせると、GCaMP6sの蛍光輝度振動は、Ca2+よりもむしろpH変化に起因するものであると考えられる。次年度の早い段階で急性的イメージング実験を行い、細胞外pHシフトさせた場合に、GCaMP6sおよびEYFPの蛍光輝度がどのような輝度変化を示すかを検討することにより、GFP変異体を用いた1波長励起1波長蛍光型センサーの問題点を明白にする予定である。 また、これまでのpHイメージングでは光源として水銀ランプを用いてきたが、長期的イメージングにおいては、温度制御が非常に難しいという欠点があった。そこで、出力の安定性が高く熱をほとんど発しない高出力LED光源を新規導入し、蛍光pHセンサータンパク質deGFP4をLNs特異的に発現させたショウジョウバエ系統を用いて、細胞内pH振動の再検討を行った。その結果、510 nm波長蛍光では、細胞内pH振動の存在を裏付ける明らかな蛍光輝度変化が観察されたが、465 nm蛍光では明瞭な変化を検出することができなかった。これはdeGFP4蛍光の特性に起因すると考えられ、計画の範囲内である。今後は、これを解決するべくイメージング装置の改善に取り組み、電気生理解析との同時測定に向けたイメージング環境を構築する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、急性的イメージング実験により、細胞外pHをシフトさせた場合に、GCaMP6sおよびEYFP蛍光輝度がどのような輝度変化を示すかを解析することにより、GFP変異体を用いた1波長励起1波長蛍光型センサーの問題点を明白にする。次に、LNsにおける概日性細胞内pHリズムと神経興奮性の相関関係を解析するため、単色LED光源の導入も含めたpHイメージング装置の改良を行う。そして、細胞外pHを人為的に変化させた場合に、LNsの細胞内pHおよび自発的神経発火頻度がどのように呼応するのかを、蛍光pHセンサータンパク質であるdeGFP4によりLNs細胞内pHをモニターしながら電位記録を行い、イメージングと電気生理記録の同時解析を試みる。 さらに、時計遺伝子の分子振動が細胞内pHリズムに及ぼす影響について調べるために、時計遺伝子変異体をバックグラウンドに持つ系統を作出し、これを用いてLNsの細胞内pHイメージングを行う。励起光の影響を遮断するための概日光受容体変異体バックグラウンドとの両立は技術的に困難と考えられることから、イオノフォアを用いた人為的H+流入による細胞内酸性化の振幅を指標として、細胞内pHリズム解析を行う。これにより、時計遺伝子の分子振動と細胞内pHリズムの関係性を明らかにする。 また、近年、耐酸性の高い緑色蛍光タンパク質が次々に新規開発され、酸性のオルガネラにおいても利用可能な各種センサータンパク質の開発も進んでいる。そこで、胚インジェクションサービスを利用し、pH感受性の低いカルシウムセンサーを発現するトランスジェニックバエの作出を試みる。pH感受性がそれでもなお課題となる場合には、細胞内pHとの同時測定を行うことにより、センサー蛍光輝度の補正を試みる。異なる蛍光センサーを用いた比較検討により、LNsにSCNニューロンで見られるような概日Ca2+濃度リズムが存在するかを再検討する。
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