研究実績の概要 |
前年度までに、Ca2+センサータンパク質(Yellow Cameleon2.1およびGCaMP6s)およびpHセンサータンパク質deGFP4を用いて蛍光イメージングを行い、ショウジョウバエのペースメーカーニューロン(LNs)の細胞内H+濃度に大きな概日振動が存在することを明らかとしていた。また、LNs特異的なミトコンドリアK+/H+交換輸送体(LETM1)ノックダウンにより、LNsの細胞内H+振動、時計遺伝子発現リズムおよび歩行活動リズムが抑制あるいは長周期化することも観察していた。最終年度においては、このLetm1ノックダウンによる影響が、RNAiにより当該遺伝子が抑制されたことによるものであるかどうかを確認する実験を行った。全神経発現ドライバーElav-Gal4を用いてLetm1 RNAiを発現させた系統の脳を用いてリアルタイムRT-PCR解析を行ったところ、有意なLetm1 mRNA発現量低下がみられ、RNAiによるLetm1ノックダウン効果が確認された。さらに、細胞外pHを変化させることにより観察していたpH依存的なLN発火頻度変化が、緩衝作用を持つ細胞内pHが変化したことによるものかを評価した。ホールセルモードで直接的に細胞内pHを変化させることはできないため、deGFP4の蛍光輝度を指標として細胞内-外pHの相関関係をキャリブレートし、細胞内pH推定を試みた。その結果、コントロールLNsでは細胞内pH(アルカリ化)と発火頻度に正の相関が示され、細胞内pH変動がLNsの活動電位リズムを駆動することが明らかとなった。中枢時計ニューロンにおける細胞内イオン濃度および時計遺伝子振動がミトコンドリアLETM1により制御されることを明らかとした本研究成果は、2022年5月に原著論文として発表した(Morioka et al., 2022 Cell Reports)。
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