本申請課題では、生物における性的対立遺伝子の性染色体への転位が、性的対立の解消と性的二型の進化に果たす機能を解明するため、顕著な性的二型を有するクワガタムシを材料にゲノム進化学的研究を行っている。 昨年度(2019年度)は、材料種のコクワガタ Dorcus rectus のメスにて昨年度に行った全ゲノム解読を行い、を有するtransformerとdoublesex遺伝子を同定、機能解析を行った。メス化遺伝子であるtransformerのノックダウンにより、メスをオスに性転換できる(つまりY染色体をもたないオスを作れる)ことが確かめられた。 これに基づき。本年度(2020年度)は、サンプル個体数を増やしてtransformer のノックダウンを重点的に行い、性転換したオス(Y染色体をもたないオス)で大顎発達に対する影響を調べた。結果、コクワガタにおいてはY染色体をもたないオスであっても、野生型のオスに比べて同等の大顎発達を示すことが明らかになった。これは、Y染色体(およびY染色体上の遺伝子)がオスの大顎発達に重要な役割を有していないことを示している。そのため、本種においては性的対立遺伝子の性染色体への転位は生じておらず、主に性特異的な遺伝子発現制御によって性的対立が解消されていることが示唆された。これらの研究成果は現在投稿に向けて論文を準備中である。
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