分裂酵母S.pombeのタービドスタットによる連続培養、微小流体デバイスによる一細胞動態観察、および自動化された画像解析パイプラインの作成による高効率の実験室進化システムの構築を目指した。しかし、主に細胞凝集の問題によって長期の培養が困難であることがわかった。培地の撹拌速度、培地組成、培養温度といったパラメータについて検討し細胞凝集を軽減もしくは遅延させることができたものの、当初予定していたほどの期間(一ヶ月以上)の自動的培養は成功しなかった。そこで、S.pombeの近縁種であるS.japonicusが保持する相同遺伝子を蛍光タンパク質と連結した上でS.pombe細胞内にて発現させ、その一細胞レベルでの動態を定量的に調べることを通して、配列進化に由来する定量生物学的な違い、すなわち分子の活性動態や細胞内局在やそれらに由来する表現型の違い、を明らかにしようと試みた。 具体的にはS.pombeにおいてその細胞サイズを制御する因子であるPom1について、発現量の異なる過剰発現株を複数作出するとともに、近縁種S.japonicusのPom1(以下sjPom1)を導入した株を作出し、表現型を観察した。その結果、sjPom1がS.pombe細胞内にて過剰発現した際には内在性のPom1に比べてはるかに強い細胞形態異常を引き起こすことがわかった。これはS.japonicusが大型の酵母であることと整合的であり、このタンパク質機能を変異導入などによってさらに調べることが細胞サイズの分子的な起源の解明につながると期待できる。 また、本研究で得られた微小流体デバイスによる観察技術や画像解析パイプラインは今後も応用可能である。
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