研究課題/領域番号 |
19K16208
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
猪飼 桂 東京工業大学, 生命理工学院, 研究員 (60806438)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原生生物 / 種分化 / 種多様性 / 多種共存 |
研究実績の概要 |
シロアリ腸内には、木質を主要な資源とする複数種の原生生物(単細胞真核生物)が高密度かつ安定的に共存する。本課題はこれら難培養性であるシロアリ腸内原生生物の種分化の系譜および多種共存機構の解明を目指す。 平成31(2019)年度は、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内オキシモナス目原生生物群集の種多様性を明確にすることを主題とした。同腸内では、少なくとも10種のオキシモナス目原生生物(形態種)がこれまで記載されてきた。まず、形態学的に識別可能なオキシモナス目原生生物をマイクロマニピュレーションにより単離後、1細胞18S rRNA遺伝子解析を行い、同原生生物の形態学的特徴と遺伝子配列のリファレンスを作成した。次に生息地域(コロニー)が異なるヤマトシロアリから調製した全腸DNAサンプルをテンプレートとし、オキシモナス目特異的18S rRNA遺伝子網羅解析(アンプリコンシーケンス)を行い、取得配列データを1塩基レベルで解析した。形態情報を伴うリファレンスデータと配列多型データを統合後、分子系統解析することにより、共存するオキシモナス目原生生物群集の遺伝的多様性の全貌を明らかにした。シロアリ1個体あたりのオキシモナス群集は100前後の18S rRNA遺伝子配列多型から構成され、その一部のみが個体間で共有された。しかし分子系統クラスターレベルで見ると、30前後の分子系統クラスターが異なるコロニーおよびシロアリ個体の腸内オキシモナス目群集に共通して存在することが明らかとなった。それら共通分子系統クラスターは、オキシモナス目原生生物の種多様性における基本的な単位、すなわち「種」に相当する可能性が示唆された。今後、共通分子系統クラスターが生態学的にも意味をもつ単位であるのか、原生生物1細胞転写産物解析等により、実験的に検証を行う。また現在、R. flavipesを含めたシロアリ3種についても、同様の種多様性解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31(2019)年度はほぼ予定通りに研究がすすんだ。当初の予定より多くのサンプルを入手したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ヤマトシロアリ腸内オキシモナス目原生生物群集より検出された共通分子系統クラスターから、近縁な分子系統クラスターを複数選択する。選択した分子系統クラスターに属するオキシモナス目原生生物を対象に1細胞転写産物解析を行い、木質分解をはじめとする機能遺伝子発現データを取得後、発現遺伝子のレパートリーおよび発現量について分子系統クラスター(種)間比較を行う。並行して、ヤマトシロアリに近縁なシロアリ3種ないしは4種の腸内オキシモナス目原生生物群集の種多様性および分子系統情報を統合し、同原生生物の種分化の系譜を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりシーケンス解析の回数が抑えられ、試薬・消耗品費の使用が少なく済んだ。また、シロアリサンプルの追加を予定したが、COVID-19の影響もあり国内外のサンプル採取が難しくなったため、その分の旅費、実験に関わる試薬・消耗品費が使用されなかった。サンプル採取もしくは入手予定は現在未定であるが、保有しているサンプルを用いて解析をすすめる計画である。
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