シロアリ腸内には木質を餌とする原生生物が複数種共存する。日本に広く分布するヤマトシロアリ腸内にはオキシモナス目原生生物が16種もが記載されてきたが、本課題による網羅的分子系統解析および種分化シミュレーションにより実際には33種 (ディネニンファ属20種、ピルソニンファ属13種)が共存することが明らかとなった。シロアリ腸内原生生物は基本的に全種が必ず宿主世代間で垂直伝播される。これらの結果と知見に基づき、オキシモナス目原生生物は種間でニッチが重ならないように分化しているという仮説のもと、1細胞転写産物解析による同原生生物種の機能分化の検証をすすめてきた。小型(50 μm未満)種から高品質な転写産物配列を取得するための実験系を構築することに予想以上の時間を要したが、独自にSmart-seq法を改変し、小型種からも培養細胞と同等レベルのデータの取得が可能となった。当初、比較的大型の2ないし3種に着目していたが、今後解析対象種を追加する。同原生生物のゲノムサイズは数十Gb以上あると推定されるため、これまで転写産物解析を第一選択としてきた。しかしながら、高品質な転写産物配列を取得した場合であっても相対的に低発現の代謝遺伝子については未検出なのかコードされていないのかの判断が困難な場合がみられる。今後、ゲノム配列取得による比較解析を実施する。網羅的転写産物配列およびドラフトゲノム情報に基づく、オキシモナス目原生生物のより詳細な機能分化の検証を行う。
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