研究実績の概要 |
近年、ハエトリグモ類は、肉食だけではなく、植物の一部を餌利用することが明らかになってきた。Hyodo, Yamasaki et al. (2018)では、熱帯のハエトリグモ類の栄養段階を調べ、一部のハエトリグモ類は雑食から植物食傾向を示すことが報告されている。本研究では、多様な食性(クモ食、アリ食、植物食など)を持つハエトリグモ類を対象に、種ごとに栄養段階を調べ、日常的に利用している餌の種類を明らかにすることを目的としている。また、複数の食性は、クモ全体を通して、収斂進化している傾向があり、ハエトリグモ類の中で、どのようなパターンで食性が進化しているのか、推定することを目的とした。系統推定用のサンプルは、新たに台湾で集める予定だったが、2020年以降コロナ禍で調査ができない期間があったため、以前から収集していたマレーシアとタイのサンプルを中心に解析を行った。 ハエトリグモ類の採集は、日本(東京、兵庫県)、台湾、マレーシア(科研費以前に実施)、タイ(科研費以前に実施)にて行った。採集した標本の一部は、栄養段階を調べるために、窒素と炭素の安定同位体比分析を行った。ハエトリグモ類の系統解析は、データの蓄積があるアリグモ属を中心に行った。また、最終年度は、上記の分析に加え、胃内容物のメタバーコーディングも行い、餌生物の特定も試みた。 マレーシア、タイのハエトリグモ類の栄養段階は、Hyodo, Yamasaki et al. (2018)で報告があるように、熱帯地域では、植物食寄りの傾向を持つ種が存在したが、日本から台湾にかけての温帯・亜熱帯地域では、そのような極端な食性の傾向は見られず、雑食から肉食傾向のみ観察された。また台湾のアリグモ属(ハエトリグモ科)2種の胃内容物のメタバーコーディング解析では、コカゲロウ類、カスミカメムシ類に加え、同じハエトリグモ類も餌としていることが分かった。
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