研究課題/領域番号 |
19K16218
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
藤谷 拓嗣 中央大学, 理工学部, 助教 (50708617)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 硝化 / comammox / 土壌 / 培養 / ゲノム / 酸性 / アンモニア / 亜硝酸 |
研究実績の概要 |
硝化反応の発見以来,アンモニアと亜硝酸の酸化はそれぞれ異なる微生物(硝化菌)によって行われると考えられてきた。しかし近年,両反応を一菌体で担う完全アンモニア酸化(Complete ammonia oxidation: Comammox)細菌の存在が明らかとなった。Comammox細菌は地球上に幅広く存在しており,生態系に及ぼす影響は大きいと推測されている。しかし,培養が難しいためにcomammox細菌の生理学・生化学的な情報は不明な点が多い。Comammox細菌は,従来亜硝酸酸化細菌として認識されていたNitrospira属に分類されるが, comammox細菌と亜硝酸酸化のみ行うNitrospiraのどちらも,土壌由来の分離株は得られていない。そこで本研究の目的は,培養技術とゲノム解析技術を併用し,土壌に生息するNitrospiraの生理学的性質とゲノム特性を解明することとした。 今年度は,施肥料が多く,硝化活性が高い茶園土壌を対象に,亜硝酸を含む無機培地を連続的に供給し亜硝酸酸化細菌の集積を行なった。さらに,集積サンプルを対象に,新規な亜硝酸酸化Nitrospiraの分離を試みた。集積時点で,Nitrospira属の相対存在量が70-80%であったことから,Nitrospiraの分離が可能であると考えた。マイクロコロニーを選択的に分取する技術を利用し,Nitrospira sp. TF株を分離することに成功した。このTF株は,既存株のNitrospira japonica NJ1と高い相同性を持ち、16S rRNA遺伝子と亜硝酸酸化還元酵素遺伝子nxrAのどちらも100%の相同性を示した。系統学的な新規性はあまり高くなかったものの, pH 5.5以下で亜硝酸酸化活性を示したことから,従来のNitrospiraに比べ酸性耐性を持つ可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,茶園土壌から亜硝酸酸化Nitrospiraの株を分離することができ,comammox細菌の高度集積も維持できている。生理学的な実験やゲノム解析を進める上では十分なバイオマスと占有率を確保できていることから,概ね順調に進展していると判断した。特に,土壌由来の亜硝酸酸化Nitrospira株は世界的にも例がなく,貴重なバイオリソースとなり得る。一方,comammox細菌の純粋培養には至っていないため,分離株を得るための戦略を練り直し,技術開発を進めていくことが課題である。たとえ純粋培養ができなかった場合でも,comammox細菌を特徴づけるための質と量は確保できているため,研究の進展が遅れることはほとんどないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
茶園土壌から分離したTF株の性状解析を進める。その際,同じ茶園土壌から分離されている亜硝酸酸化菌のNitrobacter株を比較対象とする。TF株の全ゲノム配列を取得し、Nitrobacter株や既存のNitrospira株のゲノムと比較し、特徴的な遺伝子を同定する。さらに茶園土壌を模擬した培養条件における遺伝子の発現量を測定し、環境中での適応メカニズムを調査する。これらの実験からTF株の生理学・ゲノム的な特異性を明らかにし、茶園土壌における亜硝酸酸化Nitrospiraの生存戦略を解明する。 Comammox細菌については,引き続き集積サンプルを対象に生理学的な解析とメタゲノム解析を進める。特に,遊離アンモニアとアンモニウムイオンの平衡関係から,comammox細菌が貧栄養環境や酸性環境に適応できる理由を明らかにする。特徴的な遺伝子を対象に発現解析を進め,茶園土壌の環境変動を模擬した培養条件においてcomammox細菌の適応機構を明らかにする。一方,集積サンプルからcomammox細菌の分離株を獲得することも継続的に目指す。細胞分取技術に加え,comammox細菌の生育を促す培地濃度と組成を考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により,今年度計画していた実験の一部は次年度行うこととした。また,実験消耗品に割り当てていた費用のうち,一部の費用は他の助成金で補填することができた。
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