令和4年度は、アシナガシロアリとその好白蟻性昆虫(ハネカクシ・シミ・クロバネキノコハエ)を対象にミトコンドリアゲノムのシーケンスを行った。令和3年度のシーケンスで十分な配列長を得られなかったサンプルについて再シーケンスを行い、アセンブリの手法もいくつか試すことで、寄主シロアリを含む全ての分類群からミトコンドリアゲノムを得ることができた。これら新たに得られた配列と令和3年度までに得られていた配列を用いて最尤法とベイズ法により系統解析を実施し、得られた系統樹を分類群間で比較した。結果として系統樹の枝長や遺伝的分化の程度は分類群ごとに異なっており、その理由を各分類群の祖先的な形態形質や東南アジアの地史的背景を考慮して考察した。また、各分類群の形態観察と系統解析の結果に基づき、対象のハネカクシには既知の5種が産地(マレー半島・ボルネオ島・スマトラ島)ごとに分化しており複数の未記載種が含まれることや、ボルネオ島において既知の5種とは大きく異なる更なる未記載種が得られたことが示唆された。シミとクロバネキノコバエについても同様に、対象としたサンプルには未記載種や再記載が必要な種が含まれていることが示唆された。これらの成果に基づき、現在はハネカクシを優先して記載・再記載の準備を進めている。今後、シミとクロバネキノコバエについても順次記載を進め、それぞれの分類群について分類学的論文を執筆し、系統解析の結果とともに出版を目指す。
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