植食性昆虫の資源利用は生理的な制約では説明できない(すなわち、生理的には好適な資源を使っていない例が多くみられる)ことが知られている。本研究課題は繁殖干渉(交雑等の、不適応な種間での繁殖時の相互作用)を避けるための適応として棲み場所選好性(食草の選好性など)が進化すること、とくに使用する棲み場所の多様性の種間差が進化すること、またその結果として利用する資源の幅(実現ニッチの幅)が進化することを理論的に示すことを目的としていた。前年度から行っていた数理モデルの解析を発展させることで、モデルの挙動について理解が進んだ。とくに同じパラメタの組み合わせであっても異なる帰結に落ち着くことがある(アトラクターが多数ある)こと、繁殖干渉や資源利用能力が種間で非対称な場合に種間での異なる実現ニッチ幅が進化しやすいことなどが明らかとなった。こうした結果は、多様な資源を利用するジェネラリストと限られた資源しか利用しないスペシャリストが、交雑回避の進化によって生じうることを示している。 また、本研究では資源利用の生理的なトレードオフが無いか、あるいは弱い場合を想定している。一方で類似の理論研究はトレードオフを仮定するのが普通である。したがってトレードオフの有無は本研究で発展させたモデルが現実の生物に適用可能であるかどうかに大きく影響する。本研究では文献学的な調査により、トレードオフがどれくらい一般的に見られるのかを明らかにすることも目的としていた。データベースでのキーワード検索によりヒットした7000を超える文献のタイトルと要旨から、現在関連する論文の絞り込みを進めている。またトレードオフを定量するための数式について検討を行い、2つの統計量を計算する方針が定まった。今後は文献の絞り込みとデータの吸出しを進めるとともに、考案した統計量の数学的な性質について検討を進める。
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