生物集団中の遺伝子頻度が適応的に変化し、生態学的プロセスに影響する「迅速な進化」は、野外で普遍的に見られることが明らかになってきた。迅速な進化は形質の変化を通じて、個体群動態・群集構造・生態系機能に影響し、生態学的プロセスは適応度を変えて進化に影響するため、生態と進化の間にはフィードバックが起こりうる。しかし、「資源をめぐって競争する種がどのようにして安定的に共存しているのか」という群集生態学の中心的な問いにおいて、迅速な進化が果たす役割については未解明の点が多い。 そこで本研究では、時間的・空間的な環境変動のもとで、遺伝的多様性と種多様性が相互作用する生態-進化動態を、数理モデル解析・数値計算・文献調査を通じて明らかにすることを目的とする。特に、Chessonの現代共存理論の枠組みにおいて調べられてきた、時空間的な環境変動のもとでストレージ効果・相対的非線形性などの共存メカニズムが競争排除・多種共存に与える影響を、迅速な進化を通じて捉え直すことを主眼としている。 最終年度である2023年度は、2種の消費者密度と2種類の資源量の動態がどのように2種の競争者の頻度動態に変換され、さらに性的相互作用がどのように頻度依存性とニッチの差を変化させるかを明らかにした論文を発表した。また、時間的に変動する環境における遺伝的多様性と種多様性の維持についての集団遺伝学・群集生態学的数理モデルを比較し、迅速な進化がどのようにストレージ効果を促進しうるか、という点についての理論研究を加えた総説を発表した。さらに、被食者の迅速な進化が相対的非線形性を介して捕食者の共存を促進する数理モデル解析を行い、侵入増殖率に基づいてニッチの差と競争能力の差を定量し、被食者の迅速な進化が捕食者のニッチの差を大きくすることを明らかにした。
|