研究課題/領域番号 |
19K16226
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷 和子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (40756433)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 両生類 / 行動生態 / 発達 / 種内多様性 / 社会性 / 血縁認識 / Rana ornativentris / Bufo japonicus |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウィルス感染症の流行(コロナ禍)により研究活動が大幅に滞り、本研究課題においても大きな進展は得られなかった。大学および研究室への立ち入り制限により、当初上半期に計画していた飼育実験は実行することができず、分子実験についても大幅に計画に遅れを招いた。2019年度に得たヤマアカガエル(Rana ornativentris)の行動実験結果に開発済みのSNPマーカーによる分子生態学的解析を加える計画は大幅に進まず、来年度に持ち越すことになった。R. ornativentrisの血縁認識については、前年度の実験結果により可塑性が認められている。この結果をまとめた論文は国際誌投稿したが、年度内には受理至らなかった。コロナ禍で研究発表の機会も限られ、学会発表は3月の日本生態学会オンライン大会での口頭発表のみ終わった。他方、本研題のもう1つの対象種ニホンヒキガエル(Bufo japonicus)については、東京大学駒場キャンパスの局所個体群を対象に、集団サイズと他種との相互作用の差が幼生の生存率に与える効果を検証した。他種については水環境における微生物相の差に置き換え、集団サイズはN=1、2、15の3サイズで調整し、水道水と自然下と同じ池の水を用意し早春に飼育実験を行った。結果、集団サイズの影響は双方の水環境で同じ傾向が見られ最も生存率が高い集団サイズはN=2であった。また、池の水で飼育したグループはすべての集団サイズにおいて水道水で飼育したグループよりも生存率が低かった。さらに、池の水グループの生存率において飼育槽により大きなばらつきが見られるという興味深い結果を得ており、病原菌の感染リスクの影響については今後の課題である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の通り、コロナ禍により計画していた飼育実験および分子実験を実行することができず、新たなデータ取得は当初の見込みより大幅に減った。本研究課題はこれまで比較的順調に進んでいたため、昨年度の行動実験データの解析は終えており、2020年度の新たな研究成果を得るためにはフィールドワークおよび研究室における研究活動が必須であった。しかし周知の通り、緊急事態宣言および大学の活動制限により、計画通りに行うことができなかった。また研究成果の発表についても、口頭発表を予定していた国際学会(ISBE2020)は延期され、成果発表は第68回日本生態学会におけるオンラインでの発表に留まった。投稿中の論文の改訂も遅れている。それでも、年度末近くに得られた飼育実験結果からは、本研究課題の新たな展開が見込めており、これが最も大きな2020年どの成果である。ただし、サンプル数や追加解析など課題は多い。 以上の結果を踏まえ、進捗としてはやや遅れている状況とい言える。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、2020年度の遅れを取り戻すために取得済みデータの解析を迅速に進めていく。まず、コロナ禍により延期したヤマアカガエル(Rana ornativentris)の葉山集団における分子生態学的解析の追加を進めていく。抽出済みのDNAサンプルに開発済みのSNPマーカーを用いて遺伝子型の決定を行う。また今年度は、ニホンヒキガエル(Bufo japonicus)についても次世代シーケンサーを用いてSNPマーカーの開発を行う。集団サイズと水環境が幼生の生存率に与える影響を調べた個体サンプルについてDNA抽出を行い、各個体の遺伝型を決定し、死亡した個体の共通性を調べる。飼育実験は、昨年度実行できなかったR. ortiventrisとB. japonicusの種間相互作用について、両種が同所的に分布する栃木県日光の個体群を対象に、上半期に飼育実験を行う。 2021年度は、研究結果の発表も2020年度より大幅に増やしていく。第一に改定中のR.ornativentrisの血縁認識の可塑性についての研究結果を国際誌に発表し、2020 年度に行ったB. japonicusの飼育実験の結果については学会発表を行う。秋までに上述のR. ornativentris葉山集団の分子生態学的解析を終え、行動実験の結果と合わせて論文にまとめ国際誌に投稿し早期掲載を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による研究活動の制限により、計画していた実験、また発表予定のあった国際学会(ISBE2020)が実施されなかったため。
|