研究課題/領域番号 |
19K16226
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷 和子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (40756433)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 両生類 / 行動生態 / 発達 / 種内多様性 / 社会性 / 血縁認識 / Rana ornativentris / Bufo japonicus |
研究実績の概要 |
ニホンヒキガエル(Bufo japonicus)とヤマアカガエル(Rana ornativentris)を対象に、発達と環境について検証を行なった。本年度得られた成果を以下に示す: 1. 水中の微生物嚢と集団サイズが B. japonicusの幼生に与える影響 集団サイズと水環境の違いが幼生の発生に与える影響を調べるため、水道水と池の水(一二郎池)を用いて飼育実験を行った。結果、池の水かつ集団で飼育されたとき、B. Japonicusの幼生は死亡リスクが高くなることが示された。また、池の水で飼育されると発達に時間がかかる事もわかった。遺伝的背景の影響を調べるため、MHC class IIとマイクロサテライト4lociを解析したが、生存個体および死亡個体の間に差はなかった。16S-rRNA gene-targeted ampliconの解析では、一二郎池の水から21の微生物分類群が検出された。本結果は論文にまとめ、国際誌に投稿済みである。 2. ヤマアカガエル(Rana ornativentris) の血縁者識別における遺伝的背景 RAD-seqを元に開発したSNPマーカー(7遺伝子座,22SNP)を用いて、行動実験に用いた個体のgenotypingを行った。その後、2019年度の行動データと合わせ、それぞれえ塩基多様度と集合度 (個体間距離の平均) の間に相関があるか調べた。結果、両者の関係は発達段階で変化することがわかった。遺伝的に近い兄弟同士ほど、発達が進むと固体間距離が近くなる傾向が見られた。R. ornativentrisの血縁者識別における可塑性について、遺伝的背景の影響を検出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナの影響により、実験計画通りのスケジュールを組むことができなかったため、実験データの取得に遅れが生じた。また、実施者の職業身分および研究機関が安定していないことで、年度を跨ぐ計画が練れないのは、大きな足枷になっている。総合研究大学院大学でスタートした本プロジェクトは、2020年度および2021年度は東京大学総合文化研究科に異動した。このことで予算が組みづらいだけでなく、可能な実験に制限が大きくかかった。また、生活のために他の業務に就かなければならず、本研究プロジェクトに集中して取り組める十分な時間を確保することが難しかった。個人研究であるため自己責任で進めているものの、不安定な身分で異動のたびに事務手続き等に振り回されることは、研究者にとって大変厳しい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる2022年度では、ニホンヒキガエル(Bufo japonicus)とヤマアカガエル(Rana ornativentris)について、それぞれ以下の展開を推進する予定である: 1. ニホンヒキガエル(Bufo japonicus)における血縁認識と可塑性の問題 2021年度に環境DNA(微生物嚢の次世代シーケンサーを用いた解析)と飼育実験と合わせた研究成果をまとめられたので、2022年度では、未発表のままとなっている血縁認識に関するデータをまとめていく。具体的には、幼生を単独飼育した時と集団飼育した時、また水道水で飼育した時と池の水で飼育した時の、血縁認識の差を検証したデータである。すでに行動実験は終了しており、おおよその結果がまとまっている。2022年度では、この行動実験データに遺伝子型データを加える。MHC classIIと中立マーカーを併用して遺伝子型を決定し、論文にまとめる。 2. ヤマアカガエル(Rana ornativentris) における血縁認識と可塑性の問題 2019年におこなった行動実験データに基づく血縁認識における学習の影響についての論文は国際誌に投稿済みだが未だunder reviewのままである。本論文については、年度上半期中には受理されるよう努めたい。また、研究実績欄で示したSNPによる遺伝的類似性の定量化と集合行動の関係を調べた研究については、生態学会 (ESJ69)で発表した内容をベースに対照集団の遺伝構造についての解析を加えて、夏までに論文にまとめる。本研究の内容は、両生類の血縁認識システムの先行研究がカバーされていなかった領域であり、どのようなメカニズムで血縁者を認識しているのか、血縁者識別における「学習と遺伝」の関係についての重要な報告となるため、国際誌で2022年度中に発表できるよう、執筆作業を進める。
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