これまでにナミテントウとクリサキテントウの日本各地の集団を対象に、色彩と斑紋パターンを定量化し、種間・集団間・個体間で比較を行なってきたが、最終年度では、西表島(クリサキテントウ)と四国(ナミテントウ)の集団を解析に加えた。一定条件の光源下で標本撮影を行ない、捕食者である鳥類の色覚モデルを用いて色彩を定量化した。その結果、(1)ナミテントウのほうがクリサキテントウよりも赤味(RG値)が強く、斑紋が大きいこと、(2)クリサキテントウでは南西諸島の離島では、赤味が弱く、斑紋が著しく少ない(あるいは完全に消失した)集団もあること、(3)とはいえ集団内における色彩と斑紋パターンの個体変異は大きく、連続的に変化していくこと、が明らかになった。また、リュウキュウマツの樹皮を背景として丁度可知差異(JND)を計測したところ、南西諸島のクリサキテントウではJNDが3以下になる個体、すなわち、背景の色彩との区別がつきにくい隠蔽的な個体も含まれることがわかった。これらの結果から、隠蔽的な個体と警告的な個体は明確に二分されるものではなく、中間的な色彩や斑紋をもつ個体によって連続的に変異がつながっていると考えられる。中間的な個体の機能上のメリットは不明だが、この ような形質が維持されていることで、隠蔽色から警告色への進化、またはその逆方向の進化は、ふつう想定されるよりも実現されやすいと考えられる。本研究は、同種の地理的・集団内変異を精査することで、隠蔽色と警告色という正反対の機能をもつ色彩がどのように進化したのか解明する手がかりとなると思われ る。
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