研究課題/領域番号 |
19K16232
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
藤本 真悟 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命研究員 (60795102)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 行動生態 / 生活史適応 / 個体群動態 / 進化 / メダカ |
研究実績の概要 |
メダカの野生集団における生活史形質の緯度間変異に関連する遺伝基盤を明らかにするため、青森集団と沖縄集団の交配に由来するF2個体を用いた量的形質遺伝子座解析の実験データを解析して体長、メスの産卵数、オスの求愛の積極性といった、成長や繁殖など生活史特性と関連する遺伝子座の候補領域を得ることができた。 野生集団における集団間/集団内の遺伝的多様性を把握するため、O. latipes とO. sakaizumii のそれぞれについて緯度の異なる6地点で採集して(各種3集団)、全ゲノムリシーケンス解析(WGS)を行った。本年度は、野生個体のサンプル採集と写真計測、WGS用のライブラリを作成する分子実験系の構築などの準備作業を概ね完了させた。また、塩基配列の変異を取得する解析用パイプライン構築も並行して進めた。 予備的な解析として各集団につき最低2個体をWGSして、個体のゲノムに含まれる変異から過去の有効集団サイズの変動をPSMCを用いて推定した。世代時間1年、突然変異率2.5×10^-8を仮定して推定した有効集団サイズは、いずれの集団も約10万年前から現在にかけて減少傾向を示した。また、その傾向は高緯度集団で顕著だった。これらの結果は、高緯度集団は気候環境に依存した自然淘汰が強く働くという野生集団の個体群動態に基づく知見と合致する。今後はそれぞれの集団で遺伝解析の対象個体数を増やして、FstやTajima's Dなど集団遺伝指標を計算して、ゲノム上から淘汰の働いた領域を抽出して、QTL解析で得られた候補領域との対応を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生集団のサンプリングは予定通りに進んだ。全ゲノムリシーケンス解析のための分子実験系の立ち上げに想定していたより時間がかかったので、当初は2019年度中に完了する予定だった集団遺伝解析用のシーケンス作業を、2020年度の前期に延期した。また、全ゲノムリシーケンスの消耗品の購入に想定より多くの費用がかかったので、1集団あたりの個体数を当初計画から減らして対応する。 全ゲノムリシーケンスデータを解析する手法構築を先行して進めた。具体的には染色体を短い領域に区分して、それぞれの領域ごとに集団遺伝指標を計算する解析スクリプトをメダカで利用可能にするため、情報収集とプログラムの整備を進めた。 野生集団で過去に生じた淘汰の痕跡を検出するには、複数集団の遺伝的混合など人口動態の歴史についても考慮する必要がある。ヒトの集団遺伝解析用に開発されたソフトウェアを適用して、対立遺伝子頻度の情報に基づいて過去の集団の遺伝的混合を推定できるか検討した。既に全ゲノムデータが得られていたインドネシアのメダカ属近縁種の比較ゲノム解析に適用して有効性を検証した。
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今後の研究の推進方策 |
生活史特性の緯度間変異の記載として、高緯度の青森集団が示す顕著な繁殖の季節性について報告論文をまとめている。全ゲノムリシーケンスに関する作業は、2020年度の前期中には完了する見込みである。得られたデータは順次、変異を取得する解析を行って集団遺伝解析によって自然淘汰が働いたゲノム上の候補領域を抽出する。QTL解析で得られた表現型の候補領域との対応を検討して論文化を進めるとともに学会等で報告する。 以上の解析が予定通り進んで日本海側に分布するO. sakaizumiiにおける生活史適応に関する遺伝領域が絞り込まれた場合、野生集団の追加サンプリングを行う。東北日本には、太平洋側にO. latipesが分布しており、日本海側にはO. sakaizumiiが分布する。従って、ほぼ同じ緯度に分布する2種の集団を比較することで、O. sakaizumiiで検出された高緯度環境に対する生活史適応に関わる遺伝領域が、O. latipesで平行的に進化したか検証できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
全ゲノムリシーケンス解析のための実験系立ち上げに想定よりも時間を費やしたので、2019年度内に外注先からのシーケンス解析結果の納品が難しかったため。2020年度の前期にシーケンス作業を後ろ倒しにした変更に伴って、その費用を次年度に繰り越した。
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