メダカ野生集団は繁殖可能な個体の季節的出現パターンが緯度に沿って変化し、高緯度集団ほど繁殖可能なメスが短い期間に集中して繁殖する。このような個体群動態の違いは、成長や繁殖に関する生活史特性が適応進化で変化することでもたらされるだろう。本年度は日本のメダカ野生集団における季節性繁殖の実体を、北限近くに分布する青森集団を例に論文にまとめて報告した。また、オスの二次性徴形質の種間変異について熱帯に分布する同属の近縁種との比較で明らかにした。 Oryzias latipes(沖縄)とO. sakaizumii (青森)を交配したF2個体のQTL解析データから、生活史の緯度間変異に関する遺伝基盤を探索した。成長や繁殖に関連する形質でQTLを検討したところ、常染色体に候補領域が検出された。体長は12番、オスの求愛行動の頻度は20番、メスの選好性の指標である産卵までの所要時間は、13番および18番染色体にそれぞれ関連を示した。 生活史の適応進化とこれらの領域が関連するか検証するため、O. latipes (沖縄、鹿児島、長崎)とO. sakaizumii(福井、新潟、青森)の6地点で採集した個体で全ゲノムリシーケンス解析を行った。各集団8個体、合計48個体のSNPs遺伝子型を決定した。各染色体を50000 bpの配列に区切ったゲノムスキャンで、Fstを計算して集団間で分化した領域を確認した。また、Selective sweepを検出するXP-CLRで自然淘汰が働いた領域を検討した。これら対立遺伝子頻度のパターンは自然淘汰ではなく、移住など集団遺伝構造が原因でも生じる。解析の偽陽性を減らすため、Sequentially Markovian Coalescent analysis (SMC)解析を適用して過去の有効集団サイズや集団分岐の時期など集団遺伝構造について検討を進めた。
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