本研究では、熱水化学合成微生物群集において、窒素固定細菌の働きと群集への貢献度を明らかにし、そこに存在する未培養の原始的な窒素固定細菌の生理学的性質を明らかにすることを目的とした。熱水化学合成微生物群集における微生物の機能遺伝子の発現を調べた結果、窒素固定遺伝子が環境中で発現していることが明らかとなり、窒素固定細菌による窒素化合物生産が、熱水化学合成微生物群集の生態系の維持に寄与していることが示唆された。 また、70度以上の熱水化学合成微生物群集から窒素固定をするFirmicutes門に属する発酵細菌を新たに分離し、分離細菌が78℃で窒素固定活性を示すことを明らかにした。この温度は、バクテリアで報告されている窒素固定の最高温度である70度を上回る結果となった。そこで、分離株のゲノム解析を行い窒素固定遺伝子群を調べたところ、従来の窒素固定細菌とは異なり、特徴的な窒素固定遺伝子群を保持していることが分かった。また、窒素固定遺伝子の系統樹から、分離細菌は初期に誕生した窒素固定生物であることが示唆された。本菌は近縁種とのゲノムの相同性から、新種であることがわかったため、その他の生理学的特徴を調べ、新種として国際誌IJSEMに発表した。
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