研究課題/領域番号 |
19K16235
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高須賀 圭三 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 特別研究員(RPD) (00726028)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クモ / クモヒメバチ / インジェクション |
研究実績の概要 |
クモヒメバチによる造網行動操作がクモの生理にどのように影響しているのかを検証するため、手始めに大型の円網性クモ(ナガコガネグモやジョロウグモなど)に様々な生理活性物質を様々な濃度で腹部に注入し、その後張られる網の形状の定方向の変化から造網行動に関わる神経受容体の拮抗剤を推定し、円網性クモに共通する造網行動の生体内分子機構の解明に当たった。しかしながら、安定した投与実験系の確立が容易ではなく(注入液の逆流や注入後の死亡や弱体化など)、その困難さが律速となり今のところ定方向の変化を再現できる拮抗剤候補の特定には至っていない。ただし成功率は高くないものの、一部の個体ではクモの体内へ液を物理的影響なく(投与後に健常に行動できる)インジェクションできることから、単純なケミカルスクリーニングに限らず、今後分子生物学的アプローチから得られる操作関連物質候補のバイオアッセイに適用できる(ハチ幼虫と異なり、クモは潤沢に手に入るため成功率の高低は大きくは影響しない)。 また、クモヒメバチの生態に関して、ニッコウクモヒメバチによるコクサグモへの2例目の寄生例が発見されたため、日本蜘蛛学会誌Acta Arachnologicaに発表した。本種ではメインの寄主であるクサグモを操作することが知られているが、コクサグモに対しては操作は観察されなかった。しかしながら、1個体による観察記録であるため寄主の違いによるものかたまたま起きなかっただけなのかは断言できない。 また、寄生バチと狩りバチの生態についての一般向け日本語書籍の執筆を分担し、網操作を含むクモヒメバチ類の生態について概観した章を執筆した(2020年5月出版)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クモへのインジェクションが、完全ではないものの可能であることを確認でき、また独自の飼育容器を開発し、実験室内において大型円網性クモ類に小さな空間内で本来の円網を張らせることが可能になったことから、飼育効率も格段に上がり、今後の研究の発展に期待ができる。
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今後の研究の推進方策 |
現在はスプレー空圧による液の注入を行っているが、これはクモヒメバチが寄主として利用する種では小さすぎて適用できないため、マイクロインジェクターの導入して実験系確立を目指す。 また、クモヒメバチのマルチオミクス解析による操作責任物質の候補が挙がりつつあり、順次これらの注入を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
大型クモ類への投与実験に想定より時間を取られたため、マイクロインジェクターを使った小型クモ類への実験の着手に至れなかった。20年度は小型種への実験も進めていく。
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