研究課題/領域番号 |
19K16236
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
土屋 雄揮 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (10636806)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イオン濃縮 / 次世代シークエンス / パスウェイ / バイオフィルム / アマモ |
研究実績の概要 |
静岡県下田市にある日本大学下田臨海実験所で採取したアマモの葉表面からバイオフィルム(以下、BFとする)を採取し、1)アマモの窒素源となりうるアンモニウムイオンを濃縮・保持することができるか、および2)BF内にどのような種類の微生物が存在し、どのような代謝を行えうるかを解析した。 1)採取したBFの懸濁液を作製し、アンモニウムイオンの吸着される速さと量を測定した。吸着速度は約0℃(氷上)で1分以内と速いことが解った。また、最大吸着量はBF湿重量1 gあたり5.27 (μmol)で、吸着平衡定数は、0.0044 (1/μmol)となった。弱イオン交換樹脂には及ばないが、BFが物理化学的にアンモニウムイオンを吸着できることが解った。なお、最大量をBFが吸着したと仮定するとBF内のアンモニウムイオン濃度は約5 mMと算出されるが、これは実際のBF内の濃度と同程度であった。環境中でもBFがアンモニウムイオンを吸着している可能性が示唆された。BFが形成されることでアマモは葉からアンモニウムイオンを吸収できる可能性がある。 2)BFからDNAを抽出し、次世代シークエンサー(Miseq)を用いたショットガンメタゲノム解析に供した。Miseqによって約80万 readsの塩基配列が得られた。塩基配列からアミノ酸配列を予測し、それを基に微生物の種類の解析と代謝経路の解析を行った。BF内では真正細菌由来のアミノ酸配列の占める割合が多く(85-90%)、真核微生物、アーキアは比較的少なかった。N関連の代謝経路に着目すると、BFでは、硝化や脱窒、窒素固定といった代謝に必要な遺伝子セットがほとんど検出されなかった。BF内では窒素固定による窒素源の獲得は行われていないか、行われていてもわずかである可能性がある。どこから窒素源を得ているのかを調べる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、計画していた実験であるBFのイオン濃縮能とBF内微生物群集構造の解析を実施した。イオン濃縮の実験では、BFが物理化学的にアンモニウムイオンを吸着、保持できることを明らかにした。また、実際の環境中におけるBF内のアンモニウムイオン濃度がこのイオン濃縮により到達可能なレベルであることも明らかにした。アマモの窒素源吸収に関与するアンモニウムイオンを優先して解析したが、他のイオンに関しても同様に濃縮できるようである(程度は異なるが)。様々なイオンについて詳細な解析したかったが、BFサンプル量が限られており今年度は断念した。群集構造解析では、次世代シークエンスにより得られた塩基配列のデータを解析するためのフリーのソフトウェアを、新しく導入したPCにインストールし、それらを扱うためのプログラミング環境を整えることができた。クオリティコントロール、アセンブリ、アノテーション、相同性検索などを以前よりも短時間で効率的に実行できるようになった。さらに、これまで微生物の系統解析のみを行っていたが、アミノ酸配列から酵素を推測し、群集内でどのような代謝経路が存在し得るか調べるパスウェイ解析も行えるようになった。現在、それぞれの代謝がどの微生物(群)によって行われるのかを解析している。これによりアマモへの窒素源供給に関与する可能性のある代謝と微生物種を特定できると考えている。 昨年度は夏以降、台風によりサンプリング地点のアマモ群落が壊滅し、アマモもBFも採取ができなかった。そのため実験に十分な量のサンプルが得られなかった。今年度は、サンプルを確保できなかったときの研究についても検討している(項目8を参照)。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も静岡県下田市の日本大学生物資源科学部下田臨海実験所においてサンプリングを行い、アマモとBFを採取する予定である。しかし、今般のウイルス感染症による社会情勢、あるいは昨年度のように台風の影響により、実験施設の使用ができない、あるいはアマモが採取できない可能性がある。そのため、アマモの苗を購入し、研究室の水槽で栽培を試みる。これらのアマモを用いて、BFが形成されているアマモ葉と、BFをはがしとったアマモ葉において、海水中からアマモへのアンモニウムイオンの動態ならびに、アマモの生長の程度と速度を比較することを計画している。また、アマモが十分に用意できなかった場合にも備え、昨年度のサンプルを用い、ショットガンメタゲノムによるショートリードの解析だけでなく、ナノポアを利用したロングリードの解析も実行し、得られた塩基配列をハイブリッドアセンブリすることでより詳細な系統解析、機能解析を行うことも計画している。昨年度までの研究により、窒素固定に関する遺伝子セットがBF内には多く存在しないことが解ってきたことから、BF内の微生物は窒素固定以外の経路で窒素源を得ている可能性もある。現在行っている解析により、BF内で硝酸還元やアミノ酸の代謝に関連する遺伝子が揃っている可能性があるため、これらの海水からBFへの動態についても調べる必要がある。窒素源供給に関係すると思われる遺伝子が特定された際には、特異的なプライマーを設計し、Real-time PCRによって遺伝子量を測定する予定である。
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