本研究では、アマモ葉表面バイオフィルム(biofilm; BF)による窒素供給メカニズムの解明を目的として実験を行った。計画では本アマモ(Zostera marina)をターゲットにしていたが、COVID-19の拡大に伴いアマモの定期的なサンプリングに行くことができなくなった。そのため、リュウキュウスガモ(Thalassia hemprichii)を購入して水槽で栽培した。栽培できたリュウキュウスガモの株数や葉表面BFの形成量を考慮して、分離培養法による窒素代謝関連微生物の探索、およびメタゲノムによる窒素関連パスウェイの解析の2つのアプローチで研究を進めた。 分離培養では、50菌株以上を分離することができた。16S rDNA解析の結果、殺藻細菌として知られている菌株と相同性の高いものが複数種検出された。そのうちいくつかの菌株では培養液上清にNH4+を産出(放出)するものが見られた。一方、窒素固定菌用の各種培地で培養を試みた結果、藻類と思われる茶色の細胞の増殖が確認できたが、分離していくと培養できなくなった。他の研究で報告のある珪藻と藍藻のコンソーシアが窒素固定を行っていることが推測された。 メタゲノム解析では、好気性従属栄養細菌が多く検出され、殺藻細菌のグループも含まれていた。同化的硝酸還元とアミノ酸代謝に関与する遺伝子が揃って検出されたが、窒素固定に関する遺伝子(nifH)は検出されなかった。砂や水中など葉以外のところで窒素固定が行われている可能性がある。 以上の結果より、藻類によって固定された窒素が、BF内の細菌によってNH4+に変換され、リュウキュウスガモへ供給されていることが推測された。一方、BFからは植物ホルモンを生産する菌が多く見つかったことから、BF内の微生物が植物ホルモンを生産することで植物の成長を促進している可能性も新たに見出された。
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