研究課題/領域番号 |
19K16237
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
藤岡 慧明 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員 (00722266)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | GPS / データロガー / バイオロギング / マイクロホンアレイ / 超音波 |
研究実績の概要 |
本研究課題である,コウモリの大規模採餌生態の解明のために,2020年度において,食虫性コウモリ2種に対する①GPSロガーおよび音響GPSロガーを用いたバイオロギング実験,および②マイクロホンアレイ実験を行い,大規模空間における飛行軌跡とその際の音響利用について分析を行った. ①では,3つの音響GPSイベントロガーデータをキクガシラコウモリから回収することに成功した.そのデータから,コウモリの移動が見られなかった地点においても超音波放射が確認できた.これは,コウモリが木の枝に止まって獲物を探索していることを意味する.また,移動時には獲物捕食時に見られる超音波放射パターンが多く観測された.これより当該ロガーによって大規模空間における飛行軌跡と獲物捕食の関係を時空間的に分析が初めて可能となった.今後,捕食回数や捕食地点と軌跡との関係を詳細に調べることで,採餌のための巧みな音響ナビゲーション戦術の解明が期待される.一方,ヤマコウモリの回収データからは,旭川と美瑛における回収データを比較したところ,旭川の個体の方が行動圏が広い傾向が見られた.これにより,都市部に住むコウモリの方が農村部に住むコウモリよりも行動圏が広い可能性が示唆された. ②では,①のGPSバイオロギングで推定された採餌エリアにて,コウモリが実際に獲物を捕食する際のエコーロケーション音声を計測すると同時に,採餌エリアにおける風向と風速の計測に成功した.これらのデータの解析から,ヤマコウモリが獲物からおよそ5 mの距離から約8 m/sの速度で接近飛行を開始していることが分かった.このときの飛行方向の偏りは見られなかったことから,採餌飛行時における風により飛行のバイアスはないと考えられるが弱風であったため,今後も続けて検討していく. 上記の成果を日本バイオロギング研究会シンポジウム,日本生態学会等において発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は,コウモリの音響ナビゲーションの動態を調べるために開発した音響GPSイベントロガーを主としたGPSバイオロギング実験を行うと同時に,これによって特定した場所におけるマイクロホンアレイ実験によってデータを計測し蓄積することを課題として掲げた.結果として,2019年度において実施したロガー回路基盤の強化により,これまで大きな課題であった音響GPSイベントロガーのデータ回収を大幅に改善することができた.これにより,採餌飛行中のコウモリの大規模空間における音響利用が見え始めた点が大きな成果として挙げられる.また,GPS軌道データからはコウモリの行動が都市部と農村部で異なる傾向,マイクロホンアレイ計測実験からは獲物捕食時のコウモリの風や獲物位置に対するソナー利用の特徴がそれぞれ得られ,小規模から大規模空間における軌道および音響利用の特徴が徐々に明らかになり始めている.これより,当該研究課題は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
上述のように音響GPSロガーデータの回収率を大幅に改善したものの,コウモリの音響飛行動態の特性を知る上でその量はまだ十分とは言えない.2021年度は,更に実験を実施することによってロガーデータを追加・蓄積する.そして,得られた回収データから獲物捕食の時空間的な特徴と軌跡との関係を調べることで,採餌のための音響飛行動態の特徴をパターン化すると同時にコウモリの採餌戦略について考察し,その内容を論文としてまとめる.また,音響GPSロガーでは得られないデータを,これまでに得られたGPSロガーデータとマイクロホンアレイ計測データを用いて補完することによって,採餌飛行時におけるコウモリの空間利用と獲物捕食の詳細について明らかにすることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響により,予定していた回数のフィールド調査を行うことができなかったことが大きな原因として挙げられる.音響GPSロガーをはじめ,2021年度に利用する機材はほぼ納品済みであるため,2021年度はフィールド調査の期間や回数を十分確保することで,ロガーデータの回収率の改善およびマイクロホンアレイによる音響データの取得・蓄積に努める.
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