大阪府北部(北摂地域)で採取したササ・イネをシカ嗜好植物(主要エサ資源)の代表とし、炭素窒素同位体のisoscapeを作成し、毛の同位体分析結果と組み合わせたmixing モデル構築を試みた。当初、ササとイネの対比較を意図して採集地域を選定したため山間部のササのデータが不足しており、結果的に特に毛の窒素安定同位体比は空間明示的なmixing-polygonから逸脱した。そこで、isoscapeの改善を測るために山間部のササ試料を追加収集し、追加の窒素安定同位体分析を実施した。サンプリング時に想定した通り、既往の分析試料が-3‰以上の窒素安定同位体比を示したのに比して、補完的に採取した試料は-5‰以下の値を示す試料が複数存在し、追加データによって、空間明示的なmixing-polygonが毛の窒素同位体を説明するうえで充分な解像度で得られたと判断された。これと併せて、毛試料と歯試料を組み合わせて採取した2019・2020年の試料について骨コラーゲン分析を行った。同一個体から採取した骨コラーゲンと毛の窒素同位体比は正に相関しており、当初の想定通りコラーゲンの保持する長期的な食性の傾向と毛が保持する1年以内の食性の傾向が対応することが示された。さらに、2000年代に捕獲された歯コラーゲンの窒素安定同位体比を測定し同地域の2019・2020年の試料と比較した結果、2000年代のシカの窒素同位体比が3.8‰から6.6‰ (平均4.4‰) の範囲に分布していたのに対して、2019・2020年代のシカの窒素同位体比は2.3‰から6.1‰ (平均5.5‰) の範囲の値を示した。詳細な捕獲地域の相違などの点を考慮する必要があるものの、この結果は、最近のシカと比較して2000年代のシカのほうがより農作物への依存性が高かったことを示唆している。
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