本研究は、個体識別調査や衛星発信器の装着により得られたデータを用いて、沖縄周辺に来遊するザトウクジラの基礎生態学的情報の収集および繁殖生態の解明を目的とする。また、国内来遊海域間の個体交流頻度を解析することで、沖縄のザトウクジラ個体群の保全に有益な情報を収集する。さらに、得られた研究成果を基に、ザトウクジラの繁殖行動への影響を最小限に抑えた、持続可能なホエールウォッチング産業の体制作りを行う。また、学会発表、論文公表、講演会等を通じて、幅広い分野に向け、本研究成果と取り組みについて普及する。以上により、本種の資源回復に向けた繁殖生態の解明と地域社会への貢献を目指す。 令和4年度は、慶良間諸島、本部半島周辺の2海域で計30日間の洋上調査を実施し、延べ約400頭の個体識別写真(尾びれ腹側の写真)および発見位置情報、日時、群構成等のデータを収集した。また、衛星発信器を計3個体に装着し、繁殖時期における本種の移動状況について約312時間分のデータを収集した。 また、1991-2018年に沖縄で収集された約1700個体分の来遊履歴を基に、他の研究機関と共同で、沖縄、奄美、小笠原、北海道で撮影された識別写真を海域間で照合し、海域間交流についても解析した。その結果、沖縄とこれら3海域は、1つの共通の集団によって利用されている可能性が高いことが明らかとなった。また、海域間の交流頻度の違いから、フィリピン海の太平洋側(小笠原からマリアナ諸島)と東シナ海側(奄美、沖縄、フィリピン)で、2つの小グループが存在する可能性が示唆され、同研究成果を国際学術誌に発表した。 更に、研究成果を基に、国内外において計10回の学会発表、招待講演、一般向け講演の実施と計2回のザトウクジラ特別展を開催し、ザトウクジラの保全の必要性についての教育普及および地域貢献活動を実施した。
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