研究課題
霊長類は種によって食性が多様化しているのが特徴である。果実食、葉食、昆虫食、肉食、樹液食など、さまざまな種がいる。こうした食性の適応放散は、哺乳類全体でみられる様式の縮図である。たとえば葉を主食とするコロブス類に見られる前胃発酵機構は、反芻偶蹄類やナマケモノ、カンガルーなどで見られる生理・形態と類似している。本研究の目的は、こうした霊長類と非霊長類哺乳類で見られる採食適応の収斂のメカニズムのゲノム・メタゲノム適応を明らかにすることである。採食適応には、たとえば味覚受容体遺伝子ファミリーの分子進化(ゲノム適応)、腸内細菌叢の豊富度や構成の進化(メタゲノム適応)などが関連している。本研究では、次世代シークエンシングによる比較ゲノムやメタゲノム解析、国内外でのフィールドワークによる行動観察や遺伝試料サンプリングを通じて、こうした機構を明らかにする。今年度では、サンプリング、カウンターパートとの研究の方向性に関する打合せ、基礎的なDNA実験をおこなう。本研究では霊長類の比較相手とする哺乳類について、特に有袋類を対象とした。有袋類は南米およびオーストラリア大陸に生息し、葉食のコアラ、草食のカンガルー、樹液食のフクロモモンガ、肉食のフクロネコなど、食性が多様化しており、霊長類の食性多様化様式と比較する上で好例である。京都大学霊長類研究所、日本モンキーセンターと共同研究をおこない、飼育下霊長類のゲノム試料(非侵襲試料または死亡個体からの臓器試料)やメタゲノム試料(糞便や口腔スワブなど)を収集した。また、オーストラリアに渡航し、シドニー大学と比較ゲノム研究の打ち合わせならびにカンガルー島での野外観察をおこなった。日本霊長類学会などで成果を発表した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、次世代シークエンシングによる比較ゲノムやメタゲノム解析、国内外でのフィールドワークによる行動観察や遺伝試料サンプリングを通じて、研究課題を実施する。今年度では、予定通り、サンプリング、カウンターパートとの研究の方向性に関する打合せ、基礎的なDNA実験をおこなうことができた。
第二年度では次世代シークエンサーをもちいて、収集した資料の広域ゲノム領域や、腸内細菌叢の16S配列解析をおこない、霊長類と有袋類の間での共通する進化様式がないか明らかにする。COVID-19による情勢に注意しながら、オーストラリアに渡航し、カウンターパートとの打ち合わせと現地フィールドワークをおこなう。難しい場合は、現地研究者とオンラインでの連携を通じて実施する。
研究環境の変化(代表者の所属異動)とまたCOVID-19により予定していたフィールドワーク内容が制限されたため、次年度使用額として持ち越した。制限された研究内容は次年度に実施できるように計画している。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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