現代日本人は人類史上で類を見ないほどの高齢化した集団であり、加齢に伴う運動能力や筋力の低下は集団の適応度を低下させる深刻な課題である。サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量減少に加え、筋力低下または運動機能低下を特徴とする病態と定義される。運動器疾患を有する者は痛みをきっかけに不活動になり、サルコペニア、身体不活動、呼吸機能低下との悪循環を呈する。これは二足歩行をするヒトにとっては致命的であり、高齢者の社会環境、住環境への適応という観点からも積極的に解決すべき課題である。 本研究の目的は、痛みを主訴とする運動器疾患を有する高齢者におけるサルコペニアの有病状況を調査し、悪循環を呈する可能性があるサルコペニアと呼吸機能低下、身体不活動との関連を明らかにすることである。 整形外科外来受診高齢者を対象に、サルコペニアの検査として、Bioelectrical impedance analysis法を用いた体組成計による骨格筋量の測定、握力検査、歩行速度検査を実施するとともに、痛みの評価、呼吸機能検査、身体活動量評価を実施する。また、質問紙により日常生活活動、健康関連QOL、現病歴、既往歴、服薬状況、喫煙歴、転倒歴、転倒恐怖感の有無を聴き取る。これらの結果から、サルコペニアの有病率を明らかにし、サルコペニア群と非サルコペニア群の2群において各項目の比較検討を行った。さらに、サルコペニアを結果変数として、呼吸機能、社会的ADL身体活動量、痛みなどを説明変数とするロジスティック回 帰分析を行った。 運動器疾患を有する高齢者における、サルコペニアと呼吸機能との関連について、英語論文として公開した。本調査により、サルコペニア予防において、呼吸機能の把握と維持が重要であり、サルコペニア・フレイルの予防活動に合わせて呼吸機能のスクリーニングが必要となることが示唆された。
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