研究課題/領域番号 |
19K16246
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
石谷 孔司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 産総研特別研究員 (40826062)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム / 多型 / SNP / ミトコンドリアゲノム / Y染色体 |
研究実績の概要 |
本研究課題の計画初年度では、ヒトの系統関係の推定に重要なゲノム領域を対象としてミトコンドリアゲノムとY染色体を対象としたDNA多型解析技術の開発を進めた。ヒトのミトコンドリアゲノムは母系の系統関係を調べる上で有益な情報を有しており、現在まで5000以上のハプログループが知られている。劣化試料や微量試料においてはミトコンドリアゲノムを対象に分析が行われることが多いが、試料の保存状態によってはミトコンドリアゲノムの部分的なDNA配列しか得られず試料の比較が出来ないケースがある。そこで、本年度ではヒトミトコンドリアゲノムを対象に欠損情報を高精度に補完するためのアルゴリズムを開発し、コンピュータプログラムとして実装・公開を行った。これらの成果については関連の査読付きオープンアクセス誌にて発表を行った。加えて、ミトコンドリアハプログループをベースにした混入DNAの検出アルゴリズムを開発し、その成果を査読付きの国際会議とオープンアクセス誌で発表を行った。また、本年度はヒトのY染色体に向けた多型解析についても検討を進めた。ヒトのY染色体は、父系の系統関係を探る上で重要な領域であり、世界各地の様々な地域集団で調べられている。一方でY染色体は繰り返し配列が多く、X染色体との相同性の高い領域があることから他の常染色体に比べ正確な多型検出が難しいという側面もある。本年度はこうしたY染色体の多型解析に伴う技術的課題に対して、高速な一塩基多型の検出技術と独自にキュレーションを行った多型データベースを組み合わせることで、Y染色体における多型解析の精度と速度について検討を行い、関連の国際会議にて成果発表を行った。これら一連の解析技術の実用性評価を兼ねて、現代試料のヒトゲノムデータだけでなく、保存状態にばらつきのある考古試料から得られた古代人ゲノムデータに対する検証も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は迅速なDNA多型解析システムの構築に向けて各種課題の整理を行い、実際のDNA多型解析に関わる各種アルゴリズムや解析方法の検討を進めることができた。そして、これらの研究成果として論文発表や国際会議での発表も行うことができた。従って、研究全体の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると考えている。次年度以降も引き続き多型解析に関連する情報解析技術の開発を中心に進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はミトコンドリアゲノムとY染色体を対象としたDNA多型解析に関わる研究を実施してきたが、その中で新たに出てきた課題とその課題解決に向けた技術改良に関する検討を今後進めていく予定である。特に、ヒトY染色体における多型検出は、多型検出以前のゲノムマッピングやアラインメントに技術的な課題が残っており、これがSNPs検出の精度にも大きな影響を及ぼすことが分かった。また、Y染色体においてはキュレーションされずに公開された多型情報も確認されたため、確度の高いSNPsを中心として解析を進めて行く予定である。また、DNAの配列だけでなく、DNAのメチル化状態から試料元の個体に関わる情報の推定方法についても検討したい。現在のところ、研究の主題としては主にヒトをターゲットとした多型解析がメインであるが、システム全体の実用性を高めるためにも、ヒト以外の生物種にも対象を広げていけるか検討していきたい。現在のシーケンス技術では試料に含まれる複数の生物種を同時並列的に解析することも出来るようなっており、対象種以外の生物種に由来する混入DNAを検出したり、対象外の混入配列を効率的に取り除くことができれば、対象種のDNA多型の検出速度と精度を改善出来ると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由として、消費税率の変更等に伴う物品費用の変動や投稿先の国際誌の変更等に伴う投稿費用の変更が影響したと考えている。これらの残額については次年度の研究費と合わせて物品費に充てたいと考えている。
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