シナプス伝達は脳機能の根幹である。本研究の目的は、シナプス小胞の放出位置を定める分子であるMunc13-1とシナプス小胞の放出効率を定める分子であるカルシウムチャネルのシナプス内空間配置及び両分子間の位置関係をナノメートルスケールで可視化解析することにより、シナプス伝達効率を決定する分子機構を解明することである。本研究では、蛍光免疫組織化学染色法を改良・最適化することによって、Munc13-1とカルシウムチャネル(Cav2.1およびCav2.2サブユニット)の脳組織切片における非常に効率の良い分子標識法を確立した。また、分子標識した脳組織切片を用いた超解像蛍光顕微鏡・STORM及びSTEDによる多色の高精細分子局在測定法を確立し、脳組織切片中の数百~数千のシナプスにおけるMunc13-1とカルシウムチャネルの分子局在定量解析を実現した。さらに、Munc13-1とカルシウムチャネルの超解像蛍光顕微鏡観察にシナプスタイプ特異的マーカーの染色・可視化を組み合わせることで、当初計画していた4種類のグルタミン酸作動性シナプス(海馬シャッファー側枝シナプス、海馬苔状線維シナプス、小脳平行繊維シナプス、及び小脳登上線維シナプス)に加えて、2種類のグルタミン酸作動性シナプス(貫通線維シナプスおよび連合・交連線維シナプス)と2種類のGABA作動性シナプスの計8種類のシナプスにおける計測を実施することができた。これらの超解像蛍光顕微鏡計測の解析結果から、中枢神経系シナプスのシナプス小胞放出部位周辺で普遍的にみられるカルシウムチャネルの分布特性とシナプスタイプ特異的な分布特性を明らかにすることができた。
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