研究課題/領域番号 |
19K16252
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松井 鉄平 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (10725948)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脳活動イメージング / カルシウムイメージング / 機能的MRI / アストロサイト |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、覚醒時の大脳皮質におけるRS-fMRIの機能的結合の神経基盤を、自発的神経活動・アストロサイト活動・脳血流の関係から明らかにすることである。本研究の学術的独自性は、先行研究が麻酔下の動物を主に用いて機能的結合の神経基盤を調べて来た事に対して、覚醒下の動物を使用することである。また、先行研究が感覚刺激に対する神経活動・アストロサイト活動・脳血流の関係を調べて来た事に対して、安静時の自発的活動に着目する点も本研究の独自性である。最後に、神経活動と脳血流の2つの関係だけでなく、そこにアストロサイト活動の観察を組み込む事が本研究の創造的な部分である。 本年度は先ず、神経活動と脳血流の計測については、覚醒状態のイメージングを行うシステムを構築した。覚醒状態ではマウスの体動によるノイズが計測の問題になる可能性が心配されたが、実際にイメージングを行ったところ体動によるノイズは軽微であった。マウスには高感度のカルシウムセンサーであるGCaMP6を大脳皮質神経細胞に発現する遺伝子改変マウスを使用し、頭蓋骨越しに神経活動と脳血流の両方を、多波長顕微鏡により観察した。 また、2光子顕微鏡を用いてアストロサイト活動と神経活動の同時観察を行った。その結果、自発的脳活動の状態において、自発的神経活動に引き続いてアストロサイト活動が惹起されること、さらにアストロサイト活動によりその後の自発的神経活動が抑制されている様子が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は概ね順調に進展している。本年度の最初の目標は、神経活動と脳血流の計測について、覚醒状態のイメージングを行うシステムを構築することであった。覚醒状態にあるマウスからの活動計測は既に達成し、実験系を確立することが出来た。 また、2光子顕微鏡を用いてアストロサイト活動と神経活動の同時観察についても達成し、自発的脳活動の状態において、神経細胞とアストロサイトの新しい相互作用を発見した。 以上の理由により、本研究は想定通りに順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず現在までに得られた研究成果である、多波長イメージングシステムの開発と、神経細胞とアストロサイトの相互作用について、学会や学術論文で報告する。また、アストロサイト活動と脳血流の同時計測については、新規計測技術を開発する。脳血流の信号は2光子顕微鏡で同時観察を行うことが難しく、アストロサイトの活動は神経活動と比較して遅く脳血流に近いダイナミクスを持つため、GCaMP信号と脳血流の信号を正確に分離するための特別な工夫が必要である。そこで1光子でのマルチスペクトル顕微鏡を用いた方法を導入し、GCaMP信号と脳血流由来の信号を正確に分離する。2光子顕微鏡によって得られたアストロサイト活動の特性をマルチスペクトル顕微鏡でも再現することにより、計測システムの正確性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度には覚醒状態でマウスの脳活動計測を行うために多波長記録システムを作成する予定であったが、覚醒状態での計測は旧式の多波長記録システムでも可能であった。そこで、新しい多波長記録システムは、覚醒状態での計測に最適化した仕様からアストロサイトに最適化した仕様に変更をするべきであると考えた。多波長記録システムによるアストロサイトの活動計測は次年度から開始であり、システムの最適化に必要なデータも次年度以降に取得予定であるため、次年度に繰り越して研究費を使用することになった。以上のように、この繰り越しによる初年度の研究計画の遅れはなく、次年度以降の研究計画の目標達成はより円滑になると考えられる。
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