本研究の目的は、覚醒下のマウスにおいて、神経細胞・アストロサイトの自発的な活動と脳血流との関係を解明し、安静時脳活動により得られる機能的結合の神経基盤を明らかにすることである。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による安静時脳活動の計測(RS-fMRI)は、ヒト大脳皮質ネットワークの機能構造の解明や、精神・神経疾患による大脳ネットワークの変性を検出する技術として臨床応用も視野に入れた研究開発が進んでいる。しかしながらfMRIは脳血流を計測する技術であるため、RS-fMRIで計測される機能的結合がどの程度まで実際の神経活動を反映したものであるかは未だ良く分かっていない。特に近年、安静時の自発的なfMRI信号が実際の神経活動と乖離している可能性が指摘されている。そこで本研究では、申請者らが最近開発したイメージング技術を駆使して、覚醒状態での大脳皮質における神経活動・アストロサイト活動・脳血流の関係を調べ、RS-fMRIの神経基盤を明らかにする。 本年度は、昨年度までに得られた成果をもとに正常時、薬剤投与時のマウス大脳皮質における機能的結合解析を行った。その結果、薬剤投与の影響は神経活動においても脳血流においても機能的結合の変化として認められたが、神経活動や脳血流の信号そのものの変化に見られたような部位特異性は明確には生じていないことが分かった。現在、これらの成果を論文としてまとめている。アストロサイトの活動計測については、新型コロナウイルス蔓延の影響や代表者の機関異動があった関係で現在も進行中である。一方その間に、機能的結合解析の解析手法の統計的な妥当性についてヒトfMRIの公開データを使用して検討を行い、論文として報告した。
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