研究課題/領域番号 |
19K16255
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩田 哲郎 東京工業大学, 技術部, 技術職員 (30771563)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 嗅覚受容体 / 遺伝子クラスター / 発現制御領域 / シスエレメント / 長距離エンハンサー |
研究実績の概要 |
嗅覚受容体は、1つの染色体上に約3メガ塩基対の単一巨大遺伝子クラスターを形成するClassⅠタイプと、ほぼ全ての染色体上に散在して多数の遺伝子クラスターを形成するClassⅡタイプの2種類に分類される。個々の嗅神経細胞は、「1細胞1受容体」ルールに従い単一の嗅覚受容体遺伝子を膨大なレパートリーから選択して発現する。申請者が最近同定したClassⅠ遺伝子発現を制御する長距離作用性シスエレメント(Jエレメント)は、“制御する遺伝子数”と“ゲノム上の作用範囲”の2点において他に類を見ない規模で遺伝子発現を制御していることが明らかとなった。本研究では、このClassⅠ遺伝子エンハンサーに着目して、長距離遺伝子発現制御の分子機構を明らかにすることを目的とし、エンハンサーによる嗅覚受容体遺伝子選択機構の解明を目指す。 本年度はJエレメントの機能解析を中心に実施し、種々の欠失トランスジーンを用いたトランスジェニックマウスにおける発現解析により、Jエレメントの機能領域を約5分の1(コアJ)にまで絞り込むことができた。さらに変異導入解析によりコアJ領域のエンハンサー活性に必要な機能モチーフを同定した。このモチーフはClassⅡ遺伝子エンハンサーにおいて見られる機能モチーフと類似しており、ClassⅠ遺伝子でも同様にエンハンサー活性に重要であることが明らかとなった。一方、Jエレメントにおいてヒトからカモノハシまで広く保存された新規コンセンサスモチーフの機能解析も実施したが、エンハンサー活性に必須ではなく、結合する転写因子の同定にも至らなかったため、どのような機能を有するかは現在のところ不明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では(1)Jエレメントの機能解析と機能因子の同定、(2)嗅神経細胞タイプによるJエレメントのエピジェネティック制御、(3)Jエレメントの超長距離相互作用の解析、の3つの小課題を計画している。本年度までに、主に課題1に関して上記実績に記載した通りの成果が上がりつつあり、Jエレメントの最小機能単位およびエンハンサー活性に必須のモチーフ配列の同定を達成した。一方で、ClassⅠ遺伝子のエンハンサーはJエレメントしか明らかになっていないため、ClassⅠエンハンサー活性特異的な機能モチーフの同定には難しい現状にある。そこで新たなClassⅠエンハンサーの同定に繋がるような遺伝子改変マウスの作出も進めている。課題3に用いる遺伝子改変(ノックイン)マウス作出にも取り掛かっているがまだ目的マウスは得られておらず、課題2については細胞調製や使用するマウス系統の検討段階である。以上の点から、課題1については目的通りの成果が得られつつあるものの、当初の研究計画よりもやや遅れつつある状況である。
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今後の研究の推進方策 |
課題1についてはおよそ当初の目的を達成しつつあるため、課題2および課題3を中心に、計画に沿って実験に必要なマウス系統の作出やサンプル調製の条件検討を進め、特にClassⅠ発現嗅神経細胞集団を対象としてエピジェネティック解析を試みる。全嗅神経細胞集団を対象としたエピゲノムデータも最近集積してきていることから、適宜これらを活用してゆく。また、当初ClassⅠ特異的なエンハンサー活性を担っていると推定されたモチーフ配列には明らかな機能性が見出されなかったことから、別の候補モチーフを見出すため、関連する遺伝子改変マウスの作出と解析も継続予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況に記載の通り課題2および3について遅れが生じ、来年度に実験が繰越り下がったため。来年度の研究計画とともに、現在得られている研究成果についての成果発表費として使用する予定である。
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