嗅神経細胞は、「1細胞1受容体」ルールに従い単一の嗅覚受容体遺伝子を膨大なレパートリーから選択して発現するが、この過程においても遺伝子調節配列(シスエレメント)が重要な役割を果たしている。申請者が初めて同定したClassⅠタイプの嗅覚遺伝子発現を制御する長距離作用性シスエレメント(Jエレメント)は、“制御する遺伝子数”と“ゲノム上の作用範囲”の2点において他に類を見ない規模で遺伝子発現を制御していることが明らかとなった。 本研究では、まずトランスジェニックマウスを用いたJエレメントの欠失解析により、Jエレメントの機能領域を約5分の1(コアJ領域)にまで絞り込み、さらに変異導入解析によりコアJ領域のエンハンサー活性に必要な機能モチーフを同定した。このモチーフはClassⅡ遺伝子エンハンサーにおいて見られる機能モチーフと類似しており、ClassⅠ遺伝子でも同様にエンハンサー活性に重要であることが明らかとなった。一方でJエレメント中に存在する新規コンセンサスモチーフ配列については、本年度欠失マウスを用いてその再評価を進めたところ、部分的にエンハンサー活性に寄与している可能性があり、今後より詳しい解析が必要である。また、トランスジェニックマウスからセルソーターにClassⅠ嗅覚受容体発現細胞の分取とバイサルファイト法によるJエレメント推定制御配列のメチル化解析を実施したが、コントロール細胞群とともにほぼメチル化CpGを検出できなかったため、この部分のDNAメチル化はClassⅠ発現嗅神経細胞とその他細胞におけるJエレメントの機能制御には寄与していないことが示唆された。以上の結果から、本研究課題ではJエレメントの機能解析を中心としてその長距離遺伝子発現制御機構の一端を明らかにすることができた。
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