研究課題/領域番号 |
19K16258
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
嶺岸 卓徳 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (40823670)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 樹状突起スパイン / シナプス可塑性 / アクチン線維 / Shootin1 / L1-CAM / N-cadherin / クラッチ分子 / 記憶形成 |
研究実績の概要 |
樹状突起スパインのサイズ増大は、記憶形成に重要な役割を果たすことが知られているが、サイズ増大を引き起こす力がいかにして生み出されるのか、その分子機構は不明であった。最近になり、当研究室は軸索伸長のための推進力発生を担うShootin1aが樹状突起スパインに発現することを見出した。さらに、我々は、Shootin1aを発現抑制した神経細胞では樹状突起スパインのサイズ増大が阻害されることを明らかにした。そこで、本研究では樹状突起スパインのサイズ増大を担うShootin1aを基盤とする分子機構とさらに記憶形成の仕組みを分子力学という視点から解明することを目指した。 昨年度までの研究により、Shootin1aが逆行性移動するアクチン線維と細胞接着分子L1-CAMを連結し、逆行性移動の力を細胞外基質に伝達することでサイズ増大のための力を生み出すことがわかった。本年度では、Shootin1aが別の細胞接着分子であるN-cadherinとも相互作用し、同様の分子機構でサイズ増大のための力の発生に関与することを見出した。さらに、Shootin1aのリン酸化による逆行性移動するアクチン線維と細胞接着分子の連結増強が、樹状突起スパインのサイズ増大に必要であることを明らかにした。 また、Shootin1aが記憶形成に関与するかを行動バッテリー試験により調べるために、タモキシフェン誘導により海馬及び大脳皮質でShootin1遺伝子を欠失するコンディショナルノックアウト (cKO)マウス系統を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度と本年度実施した研究の成果により、樹状突起スパインのサイズ増大を担うShootin1aを基盤とする分子マシナリーとその分子機構が明らかとなり、論文発表することができた (Ria* and Minegishi* et al, Cell Rep, 2021, in press, *equal contribution)。また、Shootin1aが記憶形成に関与するかを検証するために用いるcKOマウス系統を当初の予定通り樹立することができた。以上のことから、本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
樹状突起スパインのサイズ増大は記憶形成に重要な役割を果たすことが知られており、本研究の成果により、そのサイズ増大にはShootin1aを基盤とした分子機構による力の発生を必要とすることがわかった。今後は、Shootin1aを基盤とした分子機構が記憶形成に関与するのかを行動バッテリー試験により検証する。具体的には、作製したShootin1 cKOマウスを用いてY字迷路試験及びモーリス水迷路試験を行い、短期記憶と長期記憶を解析することで、Shootin1aを基盤とする分子機構の破綻が記憶学習障害を引き起こすかを検証する。また、アデノ随伴ウイルスを用いてShootin1 cKOマウスにShootin1aを遺伝子導入し、野生型と同等に記憶学習能力がレスキューされるかを検証する。同様に、アデノ随伴ウイルスを用いて野生型マウスに遺伝子導入し、Shootin1aの過剰発現により記憶学習能力が向上するかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究室で保管していた試薬及び消耗品を利用することができたためである。次年度では今後の実験に必要な試薬、消耗品、マウス飼育維持費等に充てる予定である。
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