昨年に引き続き、光反応性Haloタグ基質を用いた質量分析結果から見出した、変異FUSと野生型FUSとで相互作用が変化する因子であるATP分解酵素VCPタンパク質を対象とした研究成果をまとめた。さらに、同じく変異FUSと野生型FUSとで相互作用が変化する、微小管結合タンパク質MAP7のFUS顆粒への影響とメカニズムを研究した。 昨年度の成果報告までに1) MAP7がFUS顆粒形成を抑える、2) FUS顆粒の抑制にはMAP7の微小管結合ドメインが必要十分であることなどを見出した。今年度は、MAP7が先行研究で言われるように微小管の安定化を促進することから、安定微小管に起こる翻訳後修飾の1つである脱チロシン化に着目した研究を行った。結果として、MAP7によるFUS顆粒の形成抑制と脱チロシン化の間に相関があることを見出した。さらに、脱チロシン化に伴い遊離するチロシンがFUSに与える影響を解析すべく細胞マイクロインジェクション実験を行った。その結果、遊離チロシンのインジェクションによりFUS顆粒形成が抑えられることも見出した。これらの結果はMAP7によるFUS顆粒形成抑制のメカニズムの一端を示している。微小管の脱チロシン化はRNA局在に関わるKinesin-1の動態と密接に関わる現象であり、ALSとRNA挙動の関係性を示唆する重要な発見である。 上記に加えて、FUS顆粒内RNAを解析することで、FUS顆粒へ異常局在しているRNAを網羅することを目指し、細胞内試料採取が可能な顕微鏡装置を用いた試料採取、および微量RNA-seqをおこなった。現在そのデータを解析し、どのようなRNA分子が異常局在しているのか、またその原因因子は何かについて明らかにすべく研究を進めている。今後はこの研究を発展させ、RNA動態とALS発症の間にある分子機構解明へと向かう予定である。
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