研究課題
アストロサイトは神経傷害時に転写因子STAT3を介して長期的に活性化することが知られる。最近の我々の研究から,アストロサイトSTAT3は神経傷害だけでなく末梢炎症でも活性化し,病態の進行・維持に関わることがわかった。しかし,従来活性化持続時間が短いことが知られるSTAT3がなぜアストロサイトで長期的に活性化するのかは不明であった。我々は長期的STAT3活性化のメカニズムについて,STAT3と同様に様々な疾患に関わることが示唆されていたアストロサイトのカルシウムシグナルに着目した。事前の培養細胞を用いた検討から,カルシウムシグナル関連分子の中でもIP3R1やTRPCの関与が示唆されていたため,本研究では病態における役割について検討した。病態については,我々が過去に脊髄後角アストロサイトのSTAT3が長期的に活性化し病態の悪化に寄与することを示した慢性掻痒モデルマウスを用いた。IP3R1のshRNAをアストロサイト選択的に発現するアデノ随伴ウイルスベクターを脊髄後角に微量注入し,慢性掻痒モデルを作製したところ,コントロール群と比較して,慢性的な痒み行動及びアストロサイトSTAT3依存的因子であるLCN2の発現が有意に抑制された。また,TRPCに関しても阻害薬を脊髄腔内投与したところ,慢性的な痒み行動及び脊髄後角LCN2の発現が有意に抑制された。従来アストロサイトのカルシウム動態に深く関与することが知られていたIP3R2の欠損マウスでは慢性的な痒み行動及び脊髄後角LCN2の発現量は野生型マウスと比較して変化は認められなかった。以上の成果は最終年度にJournal of Allergy and Clinical Immunology誌に発表した。
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