研究課題/領域番号 |
19K16263
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小高 陽樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (40831243)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | iPS細胞 / ミクログリア / 脳オルガノイド / グルココルチコイド / 発達障害 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ヒトiPS細胞から脳スフェロイドとミクログリア前駆細胞の共培養によりミクログリアを含有する脳スフェロイド(ミクログリア-脳スフェロイド)を作製する。さらに、神経発達障害の環境要因となるグルココルチコイド曝露により表出するミクログリアおよび神経系細胞の表現型異常を解析し、神経発生異常におけるミクログリアの寄与解明を目指す。本年度はミクログリア-脳スフェロイドの培養系確立に取り組んだ。神経パターニングが終了した培養開始6日目の脳スフェロイドに5000個のミクログリア前駆細胞を添加することで、再現よくミクログリア前駆細胞を脳スフェロイドに定着させることに成功した。培養20日目にミクログリアマーカーであるIBA1の免疫染色を行うと、脳スフェロイドの表面のみならず、スフェロイド内部にもIBA1陽性ミクログリアが分散して存在しており、ミクログリアがスフェロイド内に浸潤することが確認された。また、これらのミクログリアは球形のアメボイド様形態を示し、胎児期のミクログリア形態と一致していた。こうしたミクログリア-脳スフェロイドに対し、合成グルココルチコイド(GC)であるDexamethasone(DEX)を3日間曝露し、各種細胞マーカー分子の発現量を定量PCR法により解析した。興味深いことに、GCに応答して発現が上昇することで知られるFKBP5は、通常の脳スフェロイドでは発現変動を示さないのに対し、ミクログリア-脳スフェロイドは顕著な発現上昇を示した。このことは、発生初期の脳におけるGCの第一作用点がミクログリアであることを示唆している。また、DEX曝露によるミクログリア活性化マーカーの減少が確認された。先行研究では、GC曝露がミクログリアを活性化するという報告と抑制するという報告の双方が存在したが、胎児ミクログリアにおいては、GCが抑制的に働くことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ミクログリア前駆細胞と脳スフェロイドの共培養を行うことで、ミクログリア含有脳オルガノイドの作製に成功した。また、培養初期のミクログリア含有脳オルガノイドにグルココルチコイドを曝露することで、ミクログリアの活性化マーカーの発現レベルが減少することを見出した。ミクログリア-脳スフェロイドの培養系は安定的に維持され、解析は神経系細胞の表現型解析に移行しつつあり、進捗状況は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
胎生期初期のミクログリアは、神経発生に伴うアポトーシス細胞の貪食や液性因子の放出により神経発生を調節することが報告されている。このため、GCによるミクログリアの抑制がこうした生理的作用を障害し、神経発生に2次的な影響を与えることが想定される。今後の研究で、GCの曝露下で長期培養を行い、神経機能を神経生理学的解析や神経系細胞の分化・増殖を組織学的に解析することで、GCによるミクログリアの抑制が神経発生に与える影響について解析を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コロナ禍によるまん延防止等重点措置の発出に伴う出勤規制が行われたため、度々培養実験を中止せざるを得ない状況にあった。そのため、実験にかかる消耗品の消費が想定より少なくなり、次年度使用額が生じた。来年度の予算は、培養実験や生化学実験に必要な消耗品代と論文の出版に必要な出版費および校正費に充当する予定である。
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