近年、iPS細胞の培養・分化誘導技術の進歩に伴い、ヒトiPS細胞から作製した、脳の立体組織構造を有する球状オルガノイド(ヒト脳スフェロイド)が多数報告されるようになっている。ヒト脳スフェロイドは、ヒト脳における立体組織構造の発生過程をin vitroで再現できるため、脳疾患への新たなアプローチ法として注目されている。一方で、これまでの脳スフェロイドには、その細胞起源の違いのため、ミクログリアが含まれておらず、ヒト脳の発生におけるミクログリアの役割は見過ごされてきた。本研究課題では、ミクログリアを内部に含有した大脳スフェロイドの作製を行う。さらに、神経発達障害の環境要因となるグルココルチコイド(GC)曝露により表出するミクログリアおよび神経系細胞の表現型異常を解析し、神経発生異常におけるミクログリアの寄与解明を目指した。 まず、ヒトiPS細胞から大脳スフェロイドとミクログリア前駆細胞をそれぞれ分化誘導し、共培養することでミクログリア含有大脳スフェロイド(MG-CS)の作製を試みた。ミクログリア前駆細胞の添加後19日目には、ミクログリアマーカーであるIBA1陽性ミクログリアが、大脳スフェロイド内部に分散して存在することが、免疫染色により確認された。これらのミクログリアは当初、球形のアメボイド様形態を示していたが、培養と共に、分岐したラミファイド形態に変化していき、大脳スフェロイド内で成熟することが示唆された。こうしたMG-CSに対し、合成GCであるDexamethasone(DEX)を曝露した。3日間のDEX曝露は、ミクログリアの活性化マーカーおよび分泌因子の発現量を減少させた。さらに、DEXを21日間長期曝露すると、MGの細胞数が著減し、神経細胞マーカーの発現量が低下することが示された。MG-CSはGCなど神経発達障害因子の解析に有用である。
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