我々ヒトは、哺乳類の中では際立って飲酒を好む動物種である。一方で、多くの哺乳類にとってエタノールは毒であり、好んでエタノールを摂取する種は多くない。遺伝学のモデルとして有名なキイロショウジョウバエは、近縁種と比べて顕著に高いエタノール嗜好性を示す。ショウジョウバエにエタノールを含む餌を与えると、日ごとにその摂取量が増加することが知られている。本研究ではショウジョウバエの摂餌行動を観察し、遺伝学的手法を用いることで、エタノール摂取量の増大を引き起こす神経メカニズムの解明を行なった。様々な神経伝達物質受容体の変異体をテストしたところ、ドーパミンD1受容体の変異体ではエタノール摂取量の増加が見られなかった。また、数日間のエタノール摂取により、脳内のドーパミンD1受容体量が増加すること、その増加が実際に飲酒の増加を引き起こしていることが明らかとなった。D1受容体は、脳内の報酬シグナルを司ることが知られている。本研究から、エタノールの繰り返し摂取による、エタノールに対する過剰な報酬シグナルが生まれたことが示された。その一方で、ドーパミン/エクダイソン受容体の変異体ではエタノール嗜好性が異常に亢進することが明らかとなった。このことは、ドーパミン/エクダイソン受容体がエタノール摂取のブレーキとして働くことを示唆する。以上、エタノール摂取量について、アクセルとブレーキの両方を分子レベルで明らかにすることができた。
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