脳内の神経回路網を構成する要素の一つであるオリゴデンドロサイトは、神経軸索に髄鞘を形成することで神経細胞間の高速で精緻なコミュニケーションを可能としている。近年、うつ病や統合失調症を代表とする精神疾患患者死後脳の解析から、オリゴデンドロサイト数の減少や髄鞘形成異常・オリゴデンドロサイト関連遺伝子の発現変動が見いだされており、オリゴデンドロサイトの機能低下による神経細胞間のコミュニケーション障害を起因とする精神疾患発症の可能性が注目されるようになってきた。そこで、オリゴデンドロサイトの機能に重要な役割を果たす遺伝子の探索を行いその機能解析を行ってきた。本研究では、その解析から見出したアルギニンメチル化酵素の1つであるPRMT4(CARM1)に着目した研究を行った。PRMT4は、脳白質の発生・発達において髄鞘形成が活発な時期のオリゴデンドロサイトに強く発現し、その後は発現低下していた。このことからオリゴデンドロサイトの分化に重要な役割を担っていると考えられた。そこで、機能を調べるため、オリゴデンドロサイトの前駆細胞を生後のマウス脳から単離しPRMT4の阻害剤で処理したところ、細胞分裂および細胞分化が抑制された。またPRMT4の阻害によって、細胞分裂を抑制する因子であるp21遺伝子の発現が上昇した。さらに、オリゴデンドロサイトの分化マーカーの発現低下も確認され、PRMT4がオリゴデンドロサイトの細胞分裂および分化の制御に重要な役割を担っていることが明らかとなった。
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