アルツハイマー病(AD)等の神経変性疾患において、酸化ストレスが病態加速因子であること考えられている。一方、抗酸化物質であるグルタチオンの量は老化や疾患の進行に伴って減少することが報告されている。本研究では、脳におけるグルタチオンの減少が神経変性に及ぼす影響を解析した。 生体内におけるグルタチオンの合成は、Glutamyl-Cysteine ligase(GCL)によって律速される。グルタチオン減少の脳への影響を解析するため、GCLのcatalytic subunitであるGCLCの脳特異的コンディショナルノックアウトマウス(GCLCflox/flox X CamKII-Cre以下GCLC-cKO)の病理解析を行った。その結果、3ヵ月齢のGCLC-cKOでは、ミクログリア及びアストロサイトの活性化を伴う激しい神経炎症がみとめられ、さらに8ヵ月齢になると、神経細胞死に伴う顕著な脳萎縮を示した。このことから、グルタチオン減少による酸化ストレスは、神経炎症を介して神経細胞死を引き起こすことが考えられる。そこでGCLC-cKOの神経炎症に関してさらに解析を行ったところ、Disease-Associated-Microglia(DAM)およびDisease-Associated-astrocyte(DAA)特異的遺伝子の発現の上昇や、炎症性細胞死(Pyroptosis)マーカーの上昇、ミクログリアによる神経細胞の貪食に関わる補体の上昇などがみとめられた。さらに、パイロトーシスにかかわる因子のノックアウトマウスとGCLC-cKOマウスを掛け合わせることで、GCLC-cKOの海馬の萎縮が抑制された。これらのことから、神経変性疾患におけるグルタチオンの減少は、神経炎症性の細胞死を引き起こすことが示された。また、神経炎症―酸化ストレスの負の連鎖が、神経変性過程に寄与していることが考えられる。
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