研究課題/領域番号 |
19K16275
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
櫻井 晃 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 主任研究員 (50749041)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シナプス可塑性 / 連合学習 / ショウジョウバエ / コマンドニューロン / 記憶 |
研究実績の概要 |
シナプスの可塑的変化によって記憶はつくられると考えられているが、両者の因果関係の解明については、「現在、我々の前に立ちはだかっている最大の問題 は、ミクロな研究と、マクロな脳機能の研究との間に横たわっている深い溝を、繋げていく方法が必ずしも明確でないことである(塚原仲晃、脳の可塑性と記 憶)」と指摘されている。そこで、本研究では、同定された中枢単一ニューロンと行動の同時リアルタイム観察によって、シナプスのミクロな変化がマクロな脳機能の変化としての記憶へとつながる過程を明らかにすることを目指す。これまでに、解剖によって脳を露出させた状態のショウジョウバエにおいて記憶形成を観察することが可能な新規古典的条件付けパラダイムの開発に成功している。しかし、GFPを用いたシナプス形態の観察や、光遺伝学的手法による人為的な神経活動の操作のために必要な脳への光照射を繰り返すと、ハエが弱りやすいことが長時間観察の障壁となることがわかった。そこで、実験条件の見直しを行い、脳への酸素供給を改善する方法を発見し、より長時間の観察を行うことが可能になった。そして、この新しい実験条件においても、これまでと同様に連合学習による記憶形成が観察されることも確認できた。また、本研究ではショウジョウバエの強みの1つである遺伝子機能の操作を行いながら、ライブイメージングを行うことも視野に入れている。そこで、本研究で用いる独自の学習実験系においても遺伝子機能の操作による記憶形成への影響が観察できるのかを検討した。具体的には、他の学習実験系において、学習・記憶に異常のある突然変異体として報告されているrutabaga2を調べたところ、本研究で用いる学習実験系においても、野生型に比べて記憶形成の効率が顕著に低いという結果が得られた。遺伝学的な操作と、ライブイメージングを組み合わせたアプローチの展望が開けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開頭状態のショウジョウバエが顕微鏡下で学習をしている状況で、脳への酸素供給が改善される新しい実験方法の開発に成功したことで、本研究課題遂行の技術的な障壁をクリアすることができたため。より長時間の蛍光ライブイメージングが可能となり、また光遺伝学的手法による神経活動操作の自由度が劇的に増した。また、突然変異体を用いた記憶の分子基盤の解析をライブイメージングと組み合わせて行うことが可能であることも確認できたため。
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今後の研究の推進方策 |
光遺伝学的手法を用いた神経活動の操作実験において、摂食コマンドニューロンであるFeeding neuronにおけるシナプスの可塑的変化によって記憶がつくられるということを示唆する予備的観察結果をこれまでに得ている。さらに観察例数を増やし、また複数種類の対照実験を行うことで、Feeding neuronにおいて統合されるシナプス入力の記憶形成における寄与を明確にする。また、条件刺激の情報をFeeding neuronへと運ぶシナプス前細胞の同定を試みる。具体的には、ショウジョウバエ中枢ニューロンの大規模データベースである「Fly Light」、「Virtual Fly Brain」を参照し、Feeding neuron近傍へと軸索を伸ばすニューロンを網羅的に調べる。そして、学習中に起こるシナプスのミクロな変化の実態を明らかにするためには、シナプス前細胞と後細胞を区別してGFPやRFPを用いて同時に可視化することや、ChR2やChrimosonを用いてそれぞれについて独立に神経活動を操作すること、あるいは各種カルシウム指示タンパク質を用いた神経活動記録が必要になる。これらを行うためには、シナプス前細胞と後細胞で、それぞれ独立にはたらく遺伝子発現システムが必要となるので、既に同定されているFeeding neuronについて、これまで用いてきたGAL4/UASシステムに加えて、lexA/lexAopシステムを用いた遺伝子発現の操作を行うための系統作成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬類や実験に供するショウジョウバエの飼育費用を他の財源からの支出によりまかなうことができたため。ライブイメージングを行うための装置の整備と改良や、シナプス前細胞のスクリーニングに必要となるショウジョウバエ系統を購入するために使う。また、研究成果を論文として発表するために英文校閲及び投稿に必要となる費用にあてる。
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