研究実績の概要 |
本研究は、記憶に関連の深い海馬体の出力部である海馬台(subiculum)を神経解剖学的特徴に基づいて領域区分した上で、各領域毎の機能の相違を明らかにすることを目標としている。拙論(Ishihara and Fukuda, 2016; Ishihara et al., 2020)において、Purkinje cell protein4(PCP4)等の染色性の違いから、腹側海馬台は遠位部(Sub1)と近位部(Sub2)の少なくとも2領域に分かれるのに対し、背側海馬台ではSub2特異的な染色性が見られなくなることから1領域と見なせることを指摘してきた。しかしながら、近年の注入実験や生理学的研究の中には、背側海馬台も遠位部と近位部の2領域に区分できると報告するものが複数存在する。この矛盾を解消すべく、冠状断・矢状断・長軸直交断の連続切片を作成し、PCP4等の分布様式を観察したところ、いずれの切片作製法でも、腹側-背側の移行部分は2領域を示したのに対して、背側端は1領域を示した。海馬体は湾曲しているため、背側端の幅は切片作製法により異なるが、背側海馬台は1領域、腹側海馬台は2領域の原則は一貫していた。 また、海馬体は背側が空間記憶に、腹側が情動記憶に関連が深いとされるが、注入実験の結果、背側ほど広いSub1からは膨大部後皮質へ、逆に腹側ほど広いSub2からは中隔核への投射が確認できた。前者は空間認知に、後者は情動に関係する脳部位であり、Sub1が空間記憶、Sub2が情動記憶の神経基盤であることが示唆された。 さらに、ドイツ学術交流会(DAAD)の助成を受けて、ベルリン・シャリテ医科大学のImre Vida教授の研究室に短期留学し、海馬台ニューロンの電気生理学的性質の解明に着手した。現在、COVID-19による感染拡大の影響で延期中だが、本年度も同研究室への研究留学を計画している。
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