本研究では、マウス体性感覚野(バレル皮質)においてヒゲ触覚情報処理を担うモジュールである「バレル」をモデルとして、感覚情報を受ける大脳皮質第4層神経細胞(L4神経細胞)がモジュールごとにグループ化し、空間的・機能的に独立した単位回路を構築する機構の解明を目指した。 2020年度までに、単一L4神経細胞の動態を追跡できる二光子顕微鏡in vivoイメージング手法を確立した。バレル形成期である生後3~6日目にわたるイメージングを行い、L4神経細胞の空間分布を座標化した。バレル形成に寄与する能動的な細胞移動と、成長に伴う大脳皮質の拡大による受動的な細胞移動とを区別するための補正方法を開発し、バレル形成期の細胞移動パラメータの定量的解析を進めた。 2021年度は、L4神経細胞の動態における、神経活動の役割解明を目的とした実験系の構築を進めた。神経活動操作として、NMDA型グルタミン酸受容体の機能欠損、および内向き整流性カリウムチャネルKir2.1の過剰発現をL4神経細胞に施し、イメージングにより細胞移動への影響を調べることとした。予備的検討として、両手法が実際にL4神経細胞によるバレル壁形成に異常をきたすかどうかについて組織学的解析により検討を行った(現在も進行中)。また異なる観点として、バレル構造の形成には、L4神経細胞の細胞移動に加えて、領域特異的な細胞死が関与する可能性が考えられる。そこで、上述のL4神経細胞の動態追跡イメージングを応用して、バレル形成期に生じる細胞死(イメージング期間中の標識細胞の消失)の解析も並行して行った。細胞移動・細胞死の両視点からの解析により、バレル構造の形成に寄与する細胞動態が明らかとなることが期待される。
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