方向性を持った刺激は、刺激方向や速度の情報が混在して神経応答として表現される。異なる情報をどの様な神経システムで読み出し、行動へ出力されるかを調べるためにコオロギの気流逃避行動に注目して実験を行う。コオロギは気流を尾葉にある機械感覚毛で検出し、最終腹部神経節内にある比較的少数の巨大介在ニューロン群(Giant interneurons: GIs)を介して脳へ情報を伝える。GIsは同定ニューロンであり、主に6つのGIsが左右対になって気流刺激に対して応答する。各GIsは刺激の速度や刺激が来る方向に依存して応答性が異なる特徴を持っており、例えばGI 10-2やGI 10-3は気流刺激の速度の大きさに関わらず、一定の方向選択性を持つ。一方で、MGIの方向選択性は他のGIsに比べて低いものの気流刺激の速度に依存して応答が大きく変化する。こうしたGIsの応答性だけではなく、行動実験や解剖学的特徴を明らかにすることにより、外界刺激を読み出す神経回路の予測と実装までを明らかにすることが目的である。 本年度は神経活動から行動を予測するためのデコーディング解析や、解剖学的特徴の解明を行った。電気生理学的手法もしくは軸索への直接的な色素注入によって、各GIsの最終腹部神経節から脳までの形状を明らかにした。各GIsは神経軸索が腹側もしくは背側のどちらを通過するのかということでこれまで2つのグループに分けられてきた。しかし、背側を通過するGIsでも、脳と胸部に投射する軸索の違いから大きく二つのグループに分けられることがわかった。このグループの違いはGIsの応答性と密接に関わっており、GIsが異なるグループで方向や速度の情報を脳へ伝達しているということが示唆された。
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