研究課題/領域番号 |
19K16284
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 雅史 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20835128)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キンカチョウ / 模倣学習 / 中脳水道周囲灰白質 / 大脳皮質運動野 / ドーパミン / 文化的伝承 / 歌鳥 / ソングバード |
研究実績の概要 |
本研究は、優れた模倣能力を有するスズメ亜目の鳥(songbird, 歌鳥)の一種キンカチョウを用いて、歌の模倣対象を選択する神経メカニズムを探究している。まず、模倣によって文化的に伝承される歌の形質を調べるため、キンカチョウの歌の様々な音響的性質を解析するプログラムを開発しており、そのうち歌のリズムを解析するプログラムを用いた解析によって、リズムの安定性が文化的に伝承される可能性が示唆された。しかし、模倣によってリズムの速度やリズムのパターンは必ずしも学習されないことがあり、たとえば個々のシラブルの音響特性やシラブル順序のような運動シークエンスは高い正確性で学習できていても、シラブル間のインターバルが長いなどの理由により歌のリズムパターンが模倣対象とは異なっている例が認められており、リズムの安定性以外のこれらのリズム特徴は、重要な文化的形質を担っていない可能性も示唆されている。キンカチョウが社会的相互作用を通して模倣を開始するときには、中脳水道周囲灰白質(periaqueductal gray: PAG)から感覚運動野(HVC)へのドーパミン出力が活性化され、模倣を促進できることが明らかになっている(Tanaka et al., 2018)。そこで、模倣の促進に係わる神経回路を探索するため、逆行性トレーサーをPAGへと注入したところ、他の中脳ドーパミン神経核である腹側被蓋野(ventral tegmental area: VTA)や黒質緻密部(substantia nigra compacta: SNc)のみならず、視床下部の視索前野(preoptic area: POA)や扁桃体(nucleus taeniae of the amygdala: TnA)など広範な神経核からPAGへの神経連絡を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究によって、キンカチョウの模倣学習によって伝承される文化的形質の一つとして発声リズムの安定性が明らかになった。世代を超えてある形質を伝承する行動は動物界でも珍しく、この発見は、同じく発話や音楽などの文化を伝承するヒトの模倣学習の神経基盤を調べるために重要な示唆を与える可能性がある。本研究では模倣学習の促進と関連した神経回路として、PAGと神経結合する神経回路を明らかにすることも目的としていたが、PAGは、かなり広範な神経核からのシナプス入力を受けることが示唆されている。これらの異なる神経核が模倣学習においてどのような貢献を果たしているのかを解明するためには、今後のさらなる研究が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって、キンカチョウの模倣学習によって選択的に伝承される形質が明らかになりつつあるが、いまだその文化的形質の全貌は明らかになっていない。キンカチョウを模倣学習の神経基盤を調べるためのモデル動物として確立するためにも、今後もキンカチョウの歌の様々な特性の網羅的解析を進め、どのような特性が模倣によって文化的に伝えられていくのか、また、どのような行動的文脈が模倣学習を促進させるのかを明らかにする必要がある。さらに、本研究は、PAGから感覚運動野HVCへのドーパミンを介したシグナル伝達が模倣学習を促進できることに着目し、この神経伝達を調節可能な神経ネットワークの解明も目指している。今後の研究では、これまでの研究で関連が示唆されている神経核が、PAGのドーパミン神経の活動へどのような影響を与えることができるのか探究する予定である。
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