研究課題
本研究は線虫の塩に対する走性を対象として、経験依存的な行動調節の機構について明らかにすることを目的としている。研究内容としては①感覚入力から行動出力までを結ぶ神経回路の動態の解析 ②感覚神経―介在神経間のシナプス極性を反転させる機構の解明 ③経験依存的な神経応答を制御する細胞内分子機構の解明、の3点に注目して計画が立てられている。今2019年度では主に①と②についての研究を実施した。まず①について、塩を受容する感覚神経ASERとその下流の介在神経AIB、そしてAIBの下流に位置する介在神経RIM、AVAによって感覚入力が行動出力に変換されることが示唆されていた。今回ASER神経の下流に存在する他の介在神経の除去株を作成し、線虫の行動と神経応答を解析した結果、複数の介在神経がAIB神経の応答と行動の制御に寄与することが示唆された。ASER神経とAIB神経の間にはシナプス接続が存在することが分かっているが、ASER神経は直接的な入力以外にも他の神経を介してAIB神経に情報伝達していることが考えられる。また全神経を同時に撮影する4Dイメージングを用いた解析も進めており、機能的な神経ネットワークの解明を試みている。②について、ASER神経の応答とAIB神経の応答の関係が経験依存的に反転することが分かっていたが、それがグルタミン酸によるシグナル伝達によって制御されていることが明らかになった。ASER神経から放出されたグルタミン酸が、AIB神経に存在する興奮性と抑制性の2種類の受容体によって受容され、それらの受容体による興奮性と抑制性の入力のバランスが経験依存的に変化することが示唆された。これらの成果は学習がどのようにして起きるかを明らかにする上で重要な知見であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は2年間の計画が立てられており、①感覚入力から行動出力までを結ぶ神経回路の動態の解析 ②感覚神経―介在神経間のシナプス極性を反転させる機構の解明 ③経験依存的な神経応答を制御する細胞内分子機構の解明、の3点が主な内容となっている。①と②については概ね予定していた実験は実施されており、データ解析等もほぼ終了し論文を近日投稿予定である。③については2020年度に実施予定である。現状新型コロナウイルスの影響で研究活動が停止しているが、論文投稿作業を行っているため現時点ではまだ大きな支障は出ていない。
前述の様に本研究課題は2年間の計画であり、①感覚入力から行動出力までを結ぶ神経回路の動態の解析 ②感覚神経―介在神経間のシナプス極性を反転させる機構の解明 ③経験依存的な神経応答を制御する細胞内分子機構の解明、の3点が主な内容となっている。2020年度では主に③の研究内容、及び投稿論文に対して要求された追加実験などを行う予定である。現在新型コロナウイルスの影響で研究活動が停止しているが、徐々に緩和される見通しであるため、基本的には計画通りに進める予定である。もし再度感染拡大等の理由で研究活動が停止した場合、それまでに得られたデータを用いて数理的な解析を主とした研究を行う予定である。
本年度に本研究課題で使用した顕微鏡等の機器は、当初の予定通り多くが課題の開始時点で所属研究室が所有していたものであった。それらの機器の整備・更新等の費用が当初の想定よりも少なかったため、申請時と比較して本年度の使用額が少なくなった。しかしその分次年度ではより多くの費用がかかることが想定されるため、次年度使用額は機器の整備・更新等に用いられる予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 5件)
BMC Biol.
巻: 18 ページ: -
10.1186/s12915-020-0745-2.